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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(1)~(11)

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俺は嫌だった。自分がちょんまげ姿になるなんて考えたこともないが、嫌だった。だって、どう考えたって機能的でもなんでもないのに、しかも、かっこ悪い。そんな髪型に誰がしたいと言うのだ。

しかし、不幸にもと言おうか幸いなことにと言おうか、俺は髪がえらく長かった。美容室も理容室も大っ嫌いだったからだ。これは小さい頃からそうで、俺も理由はよくわからない。ただ、髪を他人にいじくられるのは嫌いだ。

そして俺は、昔のものだからか、あまりよく映らない鏡の中でちょんまげ姿になった情けない自分の姿を見て、涙が出そうになった。なんの因果でこんなことをしなくちゃいけないんだ。

「じゃあお代の六十文。ちゃんと数えとくれよ」

「はい確かに!ありがとうございます。それにしても、珍しい方ですねえ…」

俺は、自分の後ろで床屋の主人と助けてくれた女の人が会話をしているのに、聞き耳を立てていた。

「まあそうなのよ。何から何まで変なのさ。着物も見たことがないものだし、髷はないし、それに「ここはどこだ」なんて、まさかそんなこと日本橋で聞かれるなんて、あたしゃ思ってもみなかったよ」

すると後ろから床屋の主人が近寄ってきて、俺の頭をもう一度くまなく眺めた。

「どうです旦那。いい男になりましたでしょう」

うるさい、ほっとけ。

そう言えたらどんなに楽か。でもここは江戸時代の江戸だ。そんなことを言ったら怪しまれる。いや、どうやらこれ以上怪しまれようがないくらい怪しまれているみたいだけど。

「えっと…いい、です…。ありがとうございました」

俺はそう言いながら店主を振り返って、立ち上がりお辞儀をする。

「うん!まあさっきの様子のまんまじゃあ、まるで山賊ですからね。なかなかの二枚目になりましたよ!」

「はあ…」

山賊、ね。そうか、俺たち現代人の髪型は江戸時代の人からすれば山賊なのか。これはいい勉強になったかもしれない。







俺はそれから、油まみれにされてきつく結ばれた頭を気にしながら、女の人に連れられて店を出た。

「あの…すみません。お代は必ず返しますから」

「いいよ別に。あたしは稼ぎがないわけじゃないんだ。それにお前さん、悪いこと言うようだけど、文無しだろう?そんなつぎはぎだらけのへんてこな着物着てさ」

「あ、これは…その…」

俺が慌てて自分が着ていたパッチワーク模様のTシャツを隠そうとすると、彼女はまた俺の手を取る。

「さて、次は着物さね。急ぐよ!あたしは仕事の時分までに帰らなきゃいけないんだからね!」

「え、ええっ!?大丈夫ですよ!」

俺が腕を引っ張って止まろうとすると、女の人は俺を振り返って睨みつけた。

「さっきから文句ばかりだねえお前さんは!そんな派手な着物じゃ役人からお咎めを受けるよ!だから着物を買うの!」

「ひいっ!?そうなんですか!?」

俺がそう叫んで身を縮めると、彼女はまたため息を吐く。

「ほんとになんにも知らないんだねえ。もしかしてお前さん、とんでもないバカなんじゃないだろうね?」