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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(6)〜(10)

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それから一週間くらいして、お父さんとお母さんはアメリカから帰ってきた。

もちろん私は家族でまた過ごせるのが嬉しかったけど、それでも消えない別れの悲しみを、家族には言えなかった。


お父さんとお母さんがくれたたくさんのお土産の品と、アメリカでのお話。でも、それも私の心を少しは和ませてはくれたけど、悲しみを消し去ってはくれなかった。


「雪乃。なんだか最近元気がないわねえ。どうしたの?」

一度だけ、お母さんにそう聞かれた。私はやっぱり、「なんでもない」と答えることしかできなかった。



元の日常が戻ってきたのに、私の心はもう元には戻らない。

それでも、「時彦さんは幽霊だから、所詮は叶わない恋だった。きっと時間が経てば忘れる」と何度も自分に言い聞かせて、私は毎日を過ごした。


それなのに、思い出してしまう。彼がいつも私に優しかったこと。頭を撫でてくれたこと。それから、危ない時に助けてくれたこと。

「君を見守っていたくて、一緒にいたのは、僕のわがままだった」。最後のその台詞を、私は何度も思い返した。







ある朝、私たち家族は、朝食の合間にテレビでニュースを見ていた。それは、裁判のニュースだった。

映像は裁判所の前を映していて、ニュースの副題として、「去年8月の交通事故、初公判が2月に」と表示されていた。

私はサラダをつつきながらそれを眺めていたけど、その実何も考えていなかった。その時、お母さんがこう言う。

「まあ。この事件、やっと裁判なのね。まったく、やっぱりこういうのって遅いわね」

お父さんはそれにこう返す。

「いろいろと手続きや準備があるんじゃないのか?」

それは世間話の延長で、私はそんなことに興味を持てる状態じゃなかった。


でも、その事件の全容がキャスターによってアナウンスされた時、私は全身に衝撃を打たれた。

画面はニューススタジオに切り替わり、よくあるスタジオセットの椅子に、キャスターのお姉さんが腰掛けている。その左には、テレビにだけ映っているのだろうニュースの見出し文が表示されている。

キャスターのお姉さんはよどみない口調で淡々とこう報せた。


「去年の8月にxx県XY市で起きました乗用車による事故の初公判が、今度行われます。この事故で逮捕されました○x△△被告は、事件当夜、飲酒をした状態で車を運転し、歩道に乗り上げた上、歩行者をはねて重症を負わせたとして、危険運転過失致死傷罪に問われています。公判は2月13日に行われる予定で、検察側は、「被告は事件当夜、酒に酔って運転が正常にできないにも関わらず、車に乗った」、「被告に重度の過失があった」としています。また、被告の弁護人は、「事件の起こった場所は見通しが悪く、被告は運転を誤ったのではなく、前日の雨から路面がぬかるんでいたことで車が滑ったのだ」と主張しています。なお、被害者となった24歳の男性、茅野時彦さんは、事件から6ケ月が経った今も、意識不明の状態が続いています」


私は、驚きに愕然としたまま、そして、“彼は生きている!”と思うと胸がふくらむようで、同時に、「今も意識不明」のままの時彦さんを思うと、動揺が止まらなかった。







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