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ただ僕は。

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閃光の嵐の中に居た。
眩いその光の中で 目を開けているのか、閉じているのか、時間(とき)すらもわからなくなりそうな僕は、ゆっくりと頭を下げた。

三十秒。いや もう少し長く折っていた腰を伸ばし、再び顔面に光を感じた。

「この度は、わたくし加門由伸の軽率な行動に 関係者各位、および企業の皆様にご迷惑をお掛け致しましたこと 深くお詫び申し上げます」

そう、僕は、今、囲みという形で 雑誌記者、レポーター、カメラマンと音声さんにマイクや機器を向けられている。離れた場所から、そして、たまたまだろうか、通行する人達が視線を向けていく。

あの日の写真。隠し撮りされたあの写真が僕の身の上に大きくのしかかっているのだ。

僕、ただ僕は・・・。

この状況に至る僕の経歴はと言えば・・・。
高校を卒業して、友人と出かけた街で声を掛けられた。芸能スカウトマンという男は、それらしい名刺を僕に差し出し、話をさせてもらえないか、と誘った。
僕は、楽しい時間を邪魔されたくはなかった。友人の一人も同じ気持ちだったのだろう。
「今 迷惑ですよ。俺たち 遊びに来てるんだからさ」
もう一人の友人は、ひとり言のように言う。
「由(よし)、すんげぇ。入っちゃえよ」
僕が 何かしらの返事をしなくてはいけないと その男性に言った。
「今、僕は彼らと過ごしたいので 遠慮してもらえませんか?」
僕にしたら 精一杯の丁寧な言葉で その場を繕った。
「そっかぁ。邪魔したね。まあ、考えておいてよ。いい返事待ってるよ。じゃ」
わりとあっけなく踵を返して男は立ち去って行った。
誰にでも軽く声を掛け誘うのか。そんなもんだ。と自身の中で 少し高揚し歓喜した気持ちを抑え 納得させた。
「由(よし)、もったいねぇ。俺ら芸能人のダチになれたかもよ」
「何言ってるんだよ。数打ちゃって感じだと思うよ」
そう言いながら なおもほくそ笑む気持ちを沈めた気がする。
しばらく行くと、女性に呼び止められた。僕たちが振り返ると、その横には男性がいた。
「なんかしたか?」とお調子のいい友人が小声で言った。
近づいてくる二人は、特別な威圧感もなく すんなり僕らの前に来た。
「君たち、この辺りの子?どっから来たの?」
女性が、喋り始めると、横の男性は その言葉をやや遮るように話し始めた。
「すまないね。急に声を掛けて。お時間はありますか?」
その二人も 僕たちに? いや僕に対しての誘いをしてきたのだ。
少しの間立ち話をした後、その男性はスーツの内ポケットから「僕の連絡先と時間取らせたお詫びにもならないけど みんなで使ってください」と名刺とクオカードを手渡された。
その後、友人とワイワイ騒いで貰ったクオカードを使った後は 起きたことなど忘れてしまった。

作品名:ただ僕は。 作家名:甜茶