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端数報告3

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おれはそんな気がするね。〈スペイン風邪〉の死者がいくらという話は、人口が今の四分の一なのに何万も元々毎年死んでいたのがその数倍、というのが本当のところじゃないのか。知らんが。というような話を何回か書いてきた。現代人は健康を守るさまざまなものに囲まれている。平均寿命が80歳にまでなったのはそれが最大の理由である。でも本当は80まで生きるのが無理のある話なので癌で死ぬようになっている。
 
タマゴはかつては籠で運ぶものだったのでよく割れたし鳥を宿主とするウイルスが死なずについていたりした。今はポリなんとか素材の凸凹パックに収まってスーパーで安く売られている。ミカンは八百屋のおじさんに頼めばダンボール箱に詰めたのを〈スーパーカブ〉で持ってきてくれる。おかげで人は風邪に勝つだけの栄養を摂れる。百年前の人間にはとても想像できないだろうが、我々は、これらのものに護られてるのだ。我々の健康は。
 
日本人や白人はこれがあまりに当たり前にあるためにその恩恵を忘れているし気づかないが、世界には、そうでない国や地域がいくらでもある。おれは前回〈コロナの禍〉とは宝くじで二等の〈スペイン風邪と同等〉、一等の〈それ以上:人類が未だ経験したことのない史上最大の災厄〉はないと書いたがそれは日本の話であって、海外では二等がありうるし一等もひょっとしたらあるかもしれない。
 
アラブ人にペルシャ人。そう言われてもなんなのかおれももちろんわからない。そのうえクルド人だとか、アルメニア人とか言われるともっとわけがわからない。だがそれでもなんだとかに生まれたというだけの理由で差別され奴隷のように扱われる人がいるのは知っている。そこでは人が百年前の日本人とたいして変わらないような生活してることも知ってる。
 
まあ一応は。そしてカメラを向けられると、人間が変わってしまう人間がいるということも知っている。すげえぞ、オレ、テレビに映っちゃってるぞ! てことは、世界の中心だ。オレが世界の中心なんだ。世界の中心で新型コロナウイルスを叫ぼう。新型コロナウイルス! 新型コロナウイルス! 新型コロナウイルスは新型です。新型なんです。旧型と違う。マスクを着けて手洗いをして換気しなけりゃいけないんです。
 
すげえぞ、オレ、こんなことを言っちゃってるぞ! テレビでしゃべってるってことは、オレの言葉は神の言葉だ。だから絶対に正しいのだ。人が言うのとおんなじことを言ってるのだから絶対に正しい。
 
けれども人と同じことをただ言ってるだけじゃダメか。少しは違うこと言おう。オレが絶対に正しいのだから何を言っても大丈夫だ。テレビでしゃべる何百という人間の中で、全部が正しかったというので最後に勝つのはこのオレなのだ。
 
というのが宝くじに狂った人間の考えである。3875275034。8736193245。6483419302。といった無数の同じに見える券の中にただ一枚、当たりがあると思っている。それを持つのは自分なのだと容易く思い込んでしまう。
 
だから言うことが早口になる。今この国では誰が何をテレビで言っても一般人は米を買いに走らない。ということは、米を買いに走らせた者が一等のくじを当てた人間だ。志村けんより偉大な人間ということなのだ。オレが米を買わせた直後に〈波〉が来て百万人が死ねば、米を買った人間はオレに感謝して言うだろう。
「ありがとう、ありがとう。アナタがテレビで話された言葉を聞いて米を買ったおかげでワタシは助かりました!」
と。フフフ、ざまあみろ。
 
というような考えを持つから言うことが早口になる。鏡に映る自分を見ることがないからそのあさましい姿に気づかぬ。おれは昔に一度だけ買ったくじを当選の番号を確かめずに破り捨てた。番号の発表の日にだ。仕事を終えて塒(ねぐら)に帰る途中でええと今日はこれから、テレビを見なきゃいけないのか。チャンネルをニュースに合わせて番号の発表を待ち、数字を書き留め持ってる券と照らし合わせなきゃいけないのか。
 
そうだよな、と思ったところでそれをやる自分の姿をおぞましく感じた。想像した光景にとても堪えられなかったので代わりに券を破り捨てた。おれは心の鏡に映る自分を尊重したわけだ。
 
そのときまではまあやっぱり、いくらかでも当たったつもりになってたんだろう。宝くじを買って当たった気になるやつは、足が地に着いてない。落とし穴の上に立ってて、薄っぺらな板を踏んでる。だから麻原彰晃とそれに従う人間のように、宙に浮く力を会得しなければならなくなる。
 
 
 
というようなアニメと言えば、『魔女の宅急便』である。
 
アフェリエイト:魔女の宅急便
 
と、いきなり話が変わるが、実はここからが本題です。また枕がやたらと長くなっちまった。どうにかならねえもんかなこれは。とにかく、『魔女の宅急便』は、地に足が着いてない設定のアニメなのだと言うことができる。何しろ魔女が箒にまたがり空を飛ぶ話だから、そうなのだと言うことができる。主人公は行き当たりばったりに訪ねたひとつの町でいきなり、適当に会った人間に向かって「ここで自分は自活生活を始めたい」と言うけれど、言われた相手は「そんなことを言われても」という顔をする。
 
「わたしは魔女です。魔女はそういうものです」
「そんなことを言われても」
 
これはすなわち、
 
「わたしは地に足が着いてない人間です。だからこういうものです」
「そんなことを言われても」
 
と言っているのに等しい。これが現実というものだ。やはり一応の保護者が要る。〈身元引受人〉とでも呼ぶものが。パン屋さんがそれになってくれることで話が次に進む。
 
 
 
というわけで『スーパーカブ』だ。と、いきなり話が変わるが、実はここからが本題です。また枕がやたらと長くなっちまった。どうにかならねえもんかなこれは。とにかく、前回書いたように、最近始まったこのアニメとケーブルテレビでやってるドラマ『マンハント:謎のなんだっけユナボマー』をおれは見てるところなんだが、『スーパーカブ』は『魔女宅』の箒を原付バイクに変えたようなところのあるアニメである。それでは地に足が着いた設定のアニメかと言えばそうではない。
 
アフェリエイト:まほうのかぜ
 
前回おれは「着いてる」と書いたがそれは「そこそこ」であって、カブの話というから見ると高校生の女の子が保護者なしにひとりで団地暮らしをしている。ありえん。カブを一万円で手に入れるけど一万で買える理由が「人を三人死なせてるから」。
 
ありえん。ほんとはここで見るのをやめようかと思ったんだが、カブが走り出してしまうとやめられなくなってしまった。
 
それどころか繰り返して見てしまった。しかしそれでも正直に言ってどこまで見るかわからなかったが、この前には主役の少女がとうとうこの、
 
画像:カシオF-91W
 
おれの時計と同じもんまで腕に着けだすもんだから最後までもう見るしかないかもなあ。これも近所のスーパーで同じ値段で買ったんだけどさ。鏡に向かってそれで頷くのを見せられると。
 
作品名:端数報告3 作家名:島田信之