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打ち切りスズメ

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ザンギリ頭を叩いてみれば、文明開化の音がする……この物語は、そんな時代の出来事である。
 社会の大変化の機運を受けて、ここに、風刺画家を志す一羽のスズメがいた。
 というわけでこのスズメは、その職において成功している人間のところへ見習いとして入り込んだ。
 が、しかし、下書きを消しゴムで消した後のそのカスを払う羽根ぼうきの役目ぐらいしか任されず(なお、直線を引く道具カラス口としても期待されそうになったが、こちらはだめだった)、得られる稼ぎもまさにスズメの涙。
 失意の日々を過ごすスズメだったが、出入りしていた若くやさしい編集者が目をかけてくれ、スズメはコラムニストとしてデビューした。口髭を生やした編集長は「スズメが書いているコラム」ということを大いに宣伝したがったが、スズメは「私は実力で認められたいんです、どうかお願いします」と哀れっぽく言うので、編集者が取りなして当面は素性が伏せられてのスタートだった。
 スズメは、人間には無い斬新な視点で、世の中を奇抜に斬っていった。おかげでゆっくりと支持を増やしていったが、一方では「視点が偏っている」「まさかスズメが書いているのではないか」などという疑いを集めてもいった。
 そして黄金色の稲穂が波打つ季節になって、それはあっけなく限界を迎えた。
 ある日のコラムが、農家の購読者の多くから深刻なクレームを受けたのである。
 取りなそうとする編集者を一喝して、編集長は丁重なお詫びとコラムの即座打ち切りを発表した。
 夢破れ、スズメは郷里の山にさみしく消えていった。

 傷心のスズメのことが気がかりだった編集者が山に探しに行くと、藪の奥にスズメたちのお宿があり、中からよく知った元コラムニストの一羽が出てきて、編集者を招き入れてくれた。
 スズメは、筆が行き過ぎてしまったことを改めて詫び、自分を心配して探しに来てくれた編集者のやさしさに感謝を伝えた。そして仲間のスズメたちとたいへんなご馳走を用意してくれ、歌や踊りで時が経つのを忘れるほどもてなしてくれた。
 ここではたと、編集者は気づいた。
(これってもしかして、帰り際につづらを選ぶ展開なのでは……)
 そして、よし、絶対に小さいほうを選ぶぞ! と決意したのだったが、さてついに帰り際の場面である。
 スズメが編集者に切り出した。
「あなたは本当に、とてもやさしい人間ですね。だから……」
 来た来た、と内心準備万端の編集者に向かって、スズメは続けた。
「あなたのような人間もいるから、私は、するつもりだった仕返しを多少手加減します」

 この後スズメ総動員による密かな世論誘導により、人間社会において、小さいほうは選んでもいいが大きいほうを選ぶと不幸になる、という運命が学校のトイレで定着したのだった。

(了)
作品名:打ち切りスズメ 作家名:Dewdrop