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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIIwith4.W.D.

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After da capo[III]:Always love for you 共に歩む







 夢を見ている。
 初音島に引っ越してきて、エリザベス達と過ごした日常。
 時空を超えた迷い人との出会いの記憶。
 時空の流転に巻き込まれて、リッカ達と再会した頃の事。
 とある南の島で出会った少年との、失われた思い出。
 ミズの国の魔法使いと出会った時。
 すべて、俺の心に仕舞っていた記憶。
 350年生きてきた、俺の大事な記憶。
 ……あれ。夢を見ている?
 はて、どうして気づいたのだろう……。
 まあいいか。
『ユーリさーん、朝だよー』
 声が聞こえる。
 多分、いや確実に。
 聞き覚えのある声。
『起きろー』
 聞き覚えどころではない。
 この声は、そう。俺の大事な人の声。
『起きないとキスするぞー』
 ああ、なんて甘美な響き。
『……てい』
 不意に唇に柔らかい感覚。
 この感覚は……多分……。



     ●     ●     ●



「……指じゃねぇか」
 寝起きの声で呟く。
 俺の口に当てられていたのは、俺の大事な人の指。ご丁寧に、手で狐を作るような要領で当てられていた。
「開口一番がそれかぁ」
「あんなこと言われたら、期待してしまうだろう?」
「聞こえてたんじゃん」
「ちょうど寝覚めが近かったんだろう」
「そういうことにしておいてあげましょう」
 俺の枕元に座っていた女性は、立ち上がってくるりと一回転。
「朝ご飯、出来てるよ。早く起きてきて」
「ああ、わかった。すぐ行く」
「待ってるよ」
 そう言って左手をひらひら。
 その薬指にはシルバーリングが嵌っていた。
「……随分と長い夢を見ていた気がする」
 覚えている限り、俺は昔の記憶を遡っていたらしい。
 睡眠時は過去の記憶の整理をすると聞く。もしかしたらこれは、その一環かもしれない。
「……さて」
 伸びをして深呼吸。
 まだ気怠さは残るが、朝食を取ればそれも解消されるだろう。
「さっさと着替えてしまおう。奥さんが待ってる」
 改めて自分の左手を確認。同じく、その薬指にはシルバーリングが嵌っている。これは俺と彼女の繋がりの証。
「ユーリさん、まだー?」
「今行くから待ってろ」
 ああ、今日も我が嫁は元気だ。この幸せは、いつまでも手放したくないな。



「さてユーリさん、今日はどうしようか」
 厳しい残暑も少しは収まったこの頃。風見学園は少し前に夏休みを終え、通常の授業に戻っている。
 だが日曜は普通に休みだ。勿論、教師である俺も。
「特にやることもないんだな、これが」
「だったらお散歩にでも行こうよ。お仕事以外はずっとおうちに籠ってるでしょ?」
 痛いところを突いてくる。
 しかも事実なだけに反論しづらい。
「……可憐よ」
「なんだね、ユーリさん」
「魅力的な提案だ。この残暑がもう少しマシになっていればな」
「そこは諦めるんだね。日本の夏って言うのは、そういうものでしょ?」
 諦めが肝心。そういうこともあるか。
 彼女は一条可憐。こと、カレン・アルペジスタの転生した存在。
 そして、俺の奥さん。
 1年前に俺が婿入りする形で結婚し、今はこうして共に暮らしている。
 やっと、100年前に実現できなかったことを果たせているのだった。
 因みにこれが理由で、俺は今「一条 有理」と名乗っている。事情を知ってる面子には関係ないんだけど。
「じゃあ、可憐は何処か行きたい場所でもあるのか?」
「ないよ」
「なんだそれ」
「でもユーリさんと一緒ならそれでいいよ」
 ――不覚にもドキッとさせられた。
 なんだこいつ。日に日に可愛くなっていくじゃねぇか。
「ユーリさん、変なこと考えないでよ。嬉しいけどさ」
 どうやら彼女は、薄いながらも魔法使いの血を受け継いでいるらしい。それが前世の記憶が戻ったことで本格的に魔法を使えるようになり、俺の教えを元に研鑽を積み、ある程度の魔法を使えるようになっていた。そのせいでたまにこうやって俺の心を覗かれるんだけど。
 それは置いといて。
 察しがいいのではなく、実際に、それも無意識に魔法を使えていた。それが事実だった。
 まあ、不思議なこともあるものだ。
「悪い。ま、そうだな」
 謝りながら、考えを巡らせる。
 可憐……いや、カレンは若くして亡くなっている。俺と付き合った期間は僅か1年半程。しかも付き合い始めてすぐに俺が女王の命で世界中を飛び回っていたから、実質的には半年にも満たない期間だ。
 そりゃ、少しでも色っぽいことしたいよな
「分かった、付き合うよ」
「やった!じゃあ準備しよ、すぐ行こう!」
「急だな」
「思い立ったが吉日だよ」
「一理あるな」
「というわけで、Let' Go!」



 暑さは残るが、風がある分幾分かマシ。今日の天気は絶好のデート日和だった。
「ねえ、ユーリさん」
「なんだ?」
 手を繋いで歩く中、不意に可憐が声をかけてくる。
「今まで聞こうと思って聞かなかったことがあるんだけどさ。なんでその眼鏡掛けてるの?」
「ああ、これか」
 徐に空いている手を自分の目元へ持っていく。
 そこには今でも掛けている件の眼鏡があった。
「昔の私のだよね、それ」
「ああ、そうだ」
「なんで掛けてるの?」
「なんでって、アルトが俺に形見分けしてくれたからだよ」
「パパが?」
 パパ。可憐がアルトを呼ぶときはこう呼ぶようにしている。
 元々父親をお父さんと呼んでいることもあり、紛らわしさを解消する為らしい。
 尤も、カレンはプライベートではアルトをパパと呼んでいたこともあり、理には適っている。
 と、それはさておき。
「それを今でも使っているの?私がいるのに?」
「……そこなぁ。難しいよなぁ」
 可憐とカレン。両方俺にとって大事な人だ。
 うーん……。
「可憐、再会したときに俺言ったよな」
「えっと、"再会して思ったよ。こいつはカレンだ、間違いなくあの時の。だけどあのカレンの代わりとは思いたくない。可憐は可憐だ、カレンじゃない。はっきり言うよ。俺はお前が好きだ。"だっけ?」
「よく覚えてるな」
「だって、再会してすぐの告白の言葉だよ。プロポーズの時の言葉と同じく、しっかり覚えてる」
「なんとも恥ずかしい限りだ」
「でもそういうことか。私ともう一人の私を同一にしたくないってこと?」
「ああ、そういうことだ。俺はカレンも可憐も、等しく愛しているからな」
「よくも恥ずかしいことを言うね。私じゃなかったらタラシみたいに思われてるよ」
「違いないな」
「けどありがとね、ユーリさん。そんな風に思ってくれて」
「どういたしまして」
「ただ、よく100年以上もその眼鏡がもってるなって思うよ。もうアンティークみたいなものでしょ?」
「それは俺の魔法でちょちょいと……」
 言いかけて、可憐の顔を覗く。
 若干引かれていた。
「その顔やめろ」
「いやぁ、その執念凄いなぁって」
「誉めてないだろ。あと、執念って言うのやめろ」
「ごめんって」
 こうして他愛のない話をしながら肩を並べて歩を進める。
 いつかにできなかったことを、果たすように。
 そして俺達は無意識に桜の元へと来ていた。
「変わらないね、ここも」
「そりゃな。枯れない桜が変わるはずがない」
 数年前に再度咲き続けるようになった枯れない桜。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr