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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.IIIwith4.W.D.

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After da capo[III]:The"HATSUNE" Island 俺の、彼の、彼女の記憶[後編]







「そんなことも、あったな」
 思い出話に花を咲かせ、早一時間。
 ティーカップの中身は既に空となり、備え付けのポットの湯もなくなっていた。
 時折体重を動かしつつも、リッカと背中を預け合う体制は変わらぬまま、俺達は話をしていた。
「そんなことって。大事なことじゃないの」
「大事なことだよ。だからこそ、こうして覚えてるんじゃないか」
「まあ、そうね」
 嘆息する声が聞こえる。
 何か呆れることでもあっただろうか。
「……あの時も、貴方は自分のことを棚に上げて皐月さんを救う為に魔法を使った」
「棚に上げてって……。そんなつもりは――」
「だってそうじゃない」
 ――ないと言いかけて、その言葉を遮られる。
「例えここで魔力を使い切って境界の世界へ取り残されたとしても、皐月さんを元の世界へ送り届ける。そう考えていたんじゃないの?」
「それは……」
「で、そうなることを想定して、私にカイの魔法陣を託した」
 図星を突かれ、俺は言葉に詰まった。
「あの時怒ったときの言葉、もう一度言うわよ」
 リッカは大きく深呼吸した。
 そして俺の表情は窺わずに、皐月を送って戻ってきたときの言葉をもう一度告げた。
「今はまだ私達が貴方を助けられる。けどそうじゃなくなったらどうするのよ。貴方はずっと生き続けるけど、私達には時間に限りがあるのよ」
 それは、俺を心から心配してくれている言葉。
「……親になってから思うけど、これ親が子供に言う言葉みたいよね」
「ノーコメントで」
 流石に真面目な話をしている時に突っ込む気力はない。
「けどリッカ、その時俺はこう言い返したよな。Noblesse oblige、高貴なる者には背負うべき責務がある、って」
「そうね。でもあなたは、それだけ言ってはぐらかしたのも覚えてるわ」
「あの時はお前もブチギレてたし、何言っても無駄だって思ったからな」
「そりゃ、あんな言葉だけポンと言われたら誰でも怒るわよ。で、それの何が答えになるのよ」
「そうだな。俺は自分を高貴なる者ではないと思ってる。けど、<失った魔術師>として背負うべき責務はあると自負している」
「その責務って何よ」
「これからの魔法使い達の行く末を見守ることだ。こっちの世界と、あっちの世界、まとめてな。なんせ俺は、これから先ずっと生きることを義務付けられているからな」
 リッカはハッとして、俺の方を見た。
「そうだろ?」
「……そうね。あまりに貴方が気にしてないものだから、生き続けるって意味を見失ってたわ」
「だろうなぁ。そんな気はしてたよ」
 そう言葉にして深呼吸。俺は言葉を紡ぐ。
「ただ、どうしても俺じゃないとって場合を除いて、俺が直接関与することはもうないだろうな。魔導書の解読は、既に非公式新聞部の若い衆たちが育ってきている。縁の魔法については……まだ俺が手を出さないといけないかもだが」
「それはどうして?」
「俺は、本来この時間を生きていてはいけない人間だからだ」
「それを言うなら私もじゃないの?」
「確かにお前も永い刻を生きてるな。けど、お前は目的があって生きていたわけだろう?ジルちゃんの望んだ、花でいっぱいの世界を創る為に」
 黙り込むリッカ。
 それは無言の肯定だった。
「けど俺は違う。俺は手を出していけないものに手を出し、結果不死の呪いを与えられた」
「それを言うなら、私も貴方も自分のエゴでずっと生きている様なものじゃない」
「結果的に言えばな。けどお前は縛られなくてもいいものの為に生きてきて、そのしがらみがなくなって生き続けるのをやめた。だが俺のこれは、犯した罪に対する罰だ。それを清算する為に生き続けなければいけない」
「その償いが、魔法使いの行く末を見守ること?」
「そういうこと」
 言い終わると、突然背中にかかっていた重みがなくなった。恐らくリッカが姿勢を正したのだろう。
 思わず俺も倣って姿勢を正す。
「……貴方は色々抱えすぎよ。たった一回ミスを犯しただけじゃない」
 少し涙声に聞こえる。同情の涙だろうか。
 けど俺はその言葉と涙を認められなくて。
「その一回のミスが大きすぎたんだよ。そうじゃなきゃ、250年も引き摺ってない」
 その同情をはねのけるように、思いをぶつけてしまう。
「だけどそうだな。もう少し自分のことを大事にしてみるよ」
「是非そうして頂戴」
 失言だと気づき、慌てて取り繕った言葉が、どれだけ彼女の心に届いたかはわからない。
 再び俺の背中に預けてきた体重を、俺は静かに受け入れていた。



     ◆     ◆     ◆



 バァン!!
 何かを叩きつけるような音が鳴り響く。
 娘達の相手をしながら休日の昼下がりを満喫していた俺は、びっくりして音の正体を探った。外へ出てみるが、何かが起こったような気配はない。むしろ周囲の家の人たちには聞こえていないようで。
 ……いや、まったく気にしていないように印象操作されているのか。
 こんなことをするということは、当然当事者はうちか隣の家の人ということになる。
「もう、何よ今の大きい音は!」
 自室に籠って何かをしていたリッカが慌てて出てきた。どうやら集中していたらしく、その顔は般若のように引き攣っている。
「お母さん、私達じゃないよ。ねえ」
「うん。お父さんと一緒に、何事かーって外に出て確認したんだもん」
 俺が言う前に、隣にいる娘達がフォローしてくれる。
 その様子を見てリッカは誤解していたことに気付く。
「じゃあ、外で何かあったってこと?」
「ああ。で、外に出てみたら、近所の人達はまったく気にしていない様子だった。となると……」
「ユーリかエリザベスが印象操作の魔法を使ったってことかしら。どちらにしても原因は隣の家にあるわね」
 俺とリッカは頷き合う。
「二人とも、俺達はちょっと隣の家に行ってくる」
「悪いんだけど、ちょっと待っててくれるかしら」
「うん」
「わかったよ」
 聞き分けのいい娘たちは、二つ返事で頷いた。
 だが二人にあまり心配させるようなことはしたくない。俺達はすぐにユーリさん達の家へ向かった。



     ◆     ◆     ◆



「もう、ユーリさん。気を付けてくださいね」
 俺が壊してしまった机を、エリザベスが直していく。
 まったく、頭に血が上ってこんなことをしてしまうなんて俺らしくない。
「……悪い。冷静さを失ってしまったようだ」
「まあ、その様子を見るに大体は察せますが……」
「そう、だろうな」
 大きく溜息。
 そして俺も片付けと修復を手伝う。流石にエリザベスだけに任せておくことは出来ない。
「……こんなもんか」
 おおよその片付けが終わった頃
 バタバタと玄関付近から音が聞こえる。流石に誰が来たのかは察するが。
「ちょっとユーリ、リズ!何があったのよ!」
 俺の書斎の入口に目を向ける。
 そこにいたのは無論、清隆リッカ夫妻。その顔の眉間には皺が寄っており、リッカに至ってはエリザベスの呼び方がリズになっている。最近は滅多になくなっていたが、これが出てくるということは、相当心に余裕がなくなっていることが窺える。
 ……と、こんなことを考えている場合ではないか。
作品名:D.C.IIIwith4.W.D. 作家名:無未河 大智/TTjr