火曜日の幻想譚 Ⅱ
167.空き缶
嫌なことがあって、会社帰りに道端の空き缶を蹴り上げた。カシュッと音を立てて、脇を少しへこませた缶は空へと飛んでいく。
少しすっとする。
だがその直後、思わず蹴られた缶の立場になって考えてしまう。
通りがかったやつにいきなり蹴られて、缶のやつもかわいそうだな。それに缶とは、おおむね買ってから飲み終える間だけの関係だよな。利用されるだけされて、そして捨てられて。寂しく転がっていたら、揚げ句の果てにいきなり蹴られる有様だ。
「お前も、苦労してるんだな」
もう既に着地を終えていた空き缶は、何にも言わないで少しだけ転がり、動きを止めた。