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長き戦いの果てに…(改訂版)【1】※年齢制限なしver

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4.ヨハン




翌朝ふたりは廊下で顔を合わせた。
「おはようございます、ルート。よく眠れましたか?」
「あ、ああ……おはよう、ローデリヒ」
 少女のように戸惑う彼にローデリヒはほんのり口元が緩んだ。
昨夜は彼が眠ったのを見届けて自室に引き上げたが、あのことが気になって眠れなかったのだ。
「その……昨日のことは……」
 彼らしくもない歯切れの悪い話しぶりだが無理もないと、ローデリヒはみなまで言わせず引き取った。
「誰にも言いませんよ、もちろんギルにもね。ご安心なさい。後でまたゆっくりお話しましょう」
だがルートヴィッヒは慌てたようにあたりをうかがい、突然早口でしゃべり始めた。
「あ、そ、その事なんだが……その、忘れて欲しいんだ」
 ローデリヒはわずかに眉をひそめた。
「昨夜はその……俺も疲れていたんだ、会うのも久しぶりだし、ついあんな事を言ってしまったが……忘れて欲しい。ただの……一時の気の迷いに過ぎない。ただの愚痴なんだ、そんなに深刻に考えるような事じゃない」
 彼らしくもない早口に、いかにも言い訳じみたセリフ。やはり放っては置けないと思ったが、ここで余計な事を言うのも得策とはいえないだろう。
「分かりました。だけどこれだけは忘れないでください。何かあったらいつでもお話をうかがいます。私はいつでもあなたのそばにいますから」
「……ありがとう」
 硬い表情で答えると、ルートヴィッヒは足早に兄の待つダイニングルームへ向かった。


今朝のダイニングルームは和やかな雰囲気の中にあった。
 この3人で囲む食卓には微妙な緊張感が漂うことが少なくないが、今日はギルベルトが上機嫌なおかげでまれに見るにぎやかな朝食になった。
 彼の気分の高揚にはもちろん先の戦いの勝利の余韻と、弟の無事帰還が大いに貢献していることは間違いない。
 ギルベルトはひとりご機嫌でまくし立て、ルートヴィッヒはひたすら聞き役に徹し、ローデリヒは時折相づちを打つ程度で特に会話に加わるでもなく静かに朝食をとっていた。
 だがギルベルトの何気ない一言が場の空気を一変させた。
「ヴェスト、あいつはどうしてる?」
「誰だ、あいつって?」
「だからよ、お前んトコのあのギリシャ系みたいな黒髪の小僧だよ」
名前を思い出そうとしているのか、少し考えると、
「ああ、確かヨハンとか言ったな」
 最初は兄の質問にけげんな顔をしていたが、ヨハンの名が出るとルートヴィッヒは手にしたフォークを皿の上に取り落として派手な音を立てた。
「どうしたヴェスト、大丈夫か」
「ルート、どうしたんですか?」
二人は同時にそう言って腰を浮かせた。
「い……いや、何でもない、ちょっと手が滑っただけだ。疲れてるのかな、済まない。それで……ヨハンがどうしたって、兄さん?」
 本人は笑って軽く流そうとしたのだろうが、演技に無理があった。笑顔は不自然に強張り、フォークを拾う手が止めどもなく震えている。
 それまで笑っていたギルベルトがすっと目を細めた。
「何かあったのか?顔色が悪いぞ」
「ルート!真っ青ですよ」
 思わず発した言葉がかぶると、もの言いたげな視線が一瞬交差したが、二人ともすぐにルートヴィッヒの方に向き直った。
「いや何でもない、大丈夫だ。ヨハンも帰国して今は休暇中のはずだが、あいつがどうかしたか?」
 ギルベルトの真紅の瞳に鋭い光。 
「……そうじゃない、お前のことを言ってる」
「俺のこと?なぜだ」
「お前、俺に何か隠してるんじゃないか?」
「何だって?隠してる?何を言ってるんだ、兄さん」
 ルートヴィッヒは早口でまくし立てた。
「そんなことあるわけないだろう、何で俺が兄さんに隠し事なんて──」
「本当か、ルートヴィッヒ?」
 被せるように言い放つと、兄の紅い目が弟を鋭く射貫いた。室内の空気が凍り付き、弟の額には冷や汗が浮かんできた。
だが意外にも張り詰めた空気を破ったのは、兄の方だった。
「そうか──なら、いいけどな。あいつ、今度また連れてこいよ」
「あ、ああ、そうだな……」
 ルートヴィッヒは無意識に目を逸らした。ギルベルトの目は納得してはいないと言外に告げていたが、今は引くことにしたらしい。ローデリヒはふたりのやりとりに口を挟むこともできず、黙って見守るしかなかった。
 その後、弟が何ごともなかったかのように話題を変えると、兄もそれ以上は追及せず、当たり障りのない話に終始して朝食は無事に終わった。

ギルベルトが外出すると、またふたりきりになった。
「ヨハンとは、どなたですか?」
「えっ?」
それまで黙っていたローデリヒが思い出したように話しかけると、ソファで新聞を読んでいたルートヴィッヒがはっとしたように顔を上げた。
「あ、ああ……ヨハンか。俺の部下で若いヤツだ。訳があってちょっと面倒をみている。話したことはなかったか?」
「ええ」
「なら今度、連れて来よう」
 ルートヴィッヒは再び新聞に目を落としたが、ローデリヒはまだ彼を見つめていた。
「……ルート」
 しばらく迷ってから、ローデリヒは意を決して声をかけた。
「ん……何だ」
 新聞から目を上げもせず、うわの空な声が返って来る。
「ヨハンは……あのことに関係があるのですか?」
 振り向いたルートヴィッヒの顔にローデリヒは衝撃を受けた。
顔色は蒼ざめ、手はひどく震えて新聞を完全に握りつぶしている。
「あ……の事、とは何だ?──ヨハンと、関係があるかだと?」
 ルートヴィッヒは冷静を装おうとしたのだろうが、お世辞にもうまくいったとは言えなかった。
大きく見開いた目は今にも涙がこぼれそうになって、唇は震えて言葉も出ないように見えた。
「なぜだ!なぜお前がそんなことを聞く?お前に一体何の権利があるっていうんだ、お前は──」
 声を詰まらせ、握っていた新聞を引き裂いて投げ捨てると、拳をテーブルに叩きつけた。
「ああ……そうだとも、ヨハンは……あの時の生き残りだ」
 ルートヴィッヒはローデリヒを睨み付けると、掠れた声で話し始めた。
「……俺は、あいつに助けられた。アルノーとテオも俺を助けようとしたが、二人共……」
「ルート……」
ローデリヒには返す言葉がなく、黙って彼を見つめるしかなかった。ささやくような声は次第に熱を帯び始めた。
「なぜ俺なんかを助けた?なぜ放っておかなかった。国の化身なんてどうせ死にやしない、死んだっていくらでも変わりが生まれて来る。なのになぜ俺なんかのために、なぜ俺が死ななかった──!」
 ルートヴィッヒは黙り込むと表情を失った。青空を写し込んだような瞳が、翳りを帯びてくすんだ色に変わっていく。
「あの時言ったろう、もう聞くなって、忘れてくれと……それなのに、なぜお前は思い出させるんだ」
 ルートヴィッヒの目がぞっとするような狂気の光を帯びるのが見えた。太い腕がゆっくりとこちらへ伸びて、すっかり肌に馴染んだいかつい指がローデリヒの白く細い首に巻きつけられる。すべてがスローモーションの世界。
時間の流れはこんなに遅いのに、なぜ私は逃げないのだろうとぼんやり考える。
「試してみようじゃないか、本当に国の化身は死なないのか。いや、死んでもすぐに生まれ変るというべきか……そうだろ?ローデリヒ──」