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長き戦いの果てに…(改訂版)【1】※年齢制限なしver

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1.帰国




「お帰りなさいルートヴィッヒ。あなたなら必ず無事に帰ると思っていましたよ」
「もちろんだとも。今回は思ったより時間が掛かってしまった。待たせて済まなかったな、ローデリヒ」
 出征前と少しも変わりないルートヴィッヒがそこにいた。
いつも通りかっちりと着こんだ軍服。きちんと撫でつけた金の髪には一筋の乱れもない。まっすぐに見つめる青いクールな瞳の輝きも、薄い唇の端を、他の人間なら気が付かない程ほんのわずかに緩め、ローデリヒにしか分からない微笑みを形作って見せるところも、少しも変わってはいなかった。
 その姿を見ると、昨日から胸の奥にわだかまっていた不安もきれいに消え去った。
「とんでもないです」
 ローデリヒは柔らかな微笑みを浮かべて彼を迎え入れた。
「もうあなたはここにいるのですから」
 久しぶりに明かりの灯ったルートヴィッヒの部屋で、二人は向かい合った。
 長かった遠征にようやく終止符を打ち、再びローデリヒの待つ家に帰って来られたことはルートヴィッヒにとって何よりも感慨深かった。
 長く厳しいぎりぎりの戦いだった。
 前線では国の化身である自分でさえ命の危険を感じるような瞬間が幾度となくあった。もちろん自分はそう簡単に死なないが、フェリシアーノや多くの部下達を置いて中途で倒れる訳にはいかなかった。
 できれば戦地に連れて行きたくはなかったが立場上行かざるを得ないフェリシアーノはもちろんのこと、部下たちも一人でも多く無事に連れて帰らなくてはならない。部隊を率いる者としてその義務を忘れたことはない。
戦いに勝って国を守り、無事に帰還する、そして愛するローデリヒと再会することが常に最前線で彼を支える力だった。
ルートヴィッヒたちは粘り強く戦い、ついに勝利をおさめた。待ちに待った日がやってきたのだ。
ところが帰国すると今度は馬鹿馬鹿しいとしか言いようのない別の戦いが待っていた。
息つく間もなく上司への戦勝報告、各種の事務処理、戦勝祝いにひっきりなしに訪れる訪問客の対応、断れないパーティーに忙殺されることになった。
 一時は永遠に続くのではないかとさえ思われたが、すべてが片付いて執務室に静けさが訪れると、ルートヴィッヒは思わず大きなため息を吐いた。
 自分は帰って来たのだ──やっと実感が湧いてきた。
ルートヴィッヒは立ち上がった。愛する者に再会する時が来たのだ。
 夜も更けて外へ出ると、連日お祭り騒ぎに浮かれる街も静けさを取り戻していた。

「ようやく二人っきりになれたな、ローデリヒ……会いたかった」
 ローデリヒは何か気の利いた言葉でも返そうとしたが、胸が一杯で言葉にならなかった。
 感傷的な女性をあれほどバカにしていた自分がこうなのかと少し腹立たしくもなった。皮肉の一つも口にしたかったが、斜に構えていられたのもほんの一瞬で、抑える間もなく涙がこぼれた。
 冷静に彼を迎えようと思っていたのに、自分の感情ひとつコントロールできないなんて。今更うぶな少女でもあるまいに……
 そんなローデリヒの心に気づいたのか気づかないのか、ルートヴィッヒは揺れる紫瞳を覗き込むと、彼にしか分からないあの微笑を浮かべ、腕を伸ばすと震える肩を抱きしめた。
その時、年長者の矜持はあっけなく崩れ去った。
「あ……会いたかった、私もずっと……あなたを…待って……」
 ローデリヒは彼の胸に顔を埋め、声を詰まらせた。
 手を離すと消えてしまうような恐怖に駆られてルートヴィッヒの大きな身体を力一杯抱きしめた。
 ルートヴィッヒは遠征中しばしばこの部屋を夢に見たのを思い出した。 
 夢の中で幾度となくこの家に帰り、その都度ローデリヒが彼を出迎えてくれた。
 つかの間の逢瀬は夢とは思えない程生々しかったが、目覚めると空しい現実を思い知らされるのが辛かった。
 遠く離れていても魂は遥かな距離を越えて求め合い、結びつくなどという。だがそのようなことはおよそ現実的には思えなかった。だから確かめずにはいられなかった。 目の前にいる相手が夢でも幻でもなく、現実の肉体を持った存在なのだと。
「待ってルート、お願い…明かりを、消して……」
 ローデリヒが掠れた声で囁くのを聞き、ルートヴィッヒは部屋の明かりを落とした。
 カーテンの隙間から青白い月光が僅かに差し込むだけの室内は薄暗く、これから始まる二人だけの聖なる宴を待ち受けるようにしんと静まり返っていた。
 時おり風が吹く位で外も静けさに包まれていた。秋の虫の音が小さく響いている。
 最後に共に過ごしたのはいつの事だったのだろうか……数ヶ月間の遠征だったが、あれからもう何年もの時が過ぎ去ったような気がする。
 わずかに開いた窓から流れ込む夜気は少しばかり肌寒かったが、熱く燃える二人には気にならなかった。

最後に共に過ごしたのはいつの事だったのだろうか……数ヶ月間の遠征だったが、あれからもう何年もの時が過ぎ去ったような気がする。
 ルートヴィッヒがギルベルトの庇護の元に生まれ、育まれてゆくのを遠くから見ていたあの日。そして縁あってルートヴィッヒと共に暮らすことになった。
 それから久しく時が過ぎたが、今のような関係になったのは意外にも最近のことだった。
 付き合いだしてさほどの時が過ぎたわけでもなく、彼と寝たのもほんの数回でしかない。だがローデリヒは遙かな年月を共に過ごして来たかのように感じていた。
 ルートヴィッヒは素直で一途だった。表も裏もなく情熱も人一倍、ここぞと思えばむしゃらに突き進む。それまで周囲にはあまりいないタイプだった。
ローデリヒは当初、物珍しさから彼に近づいた。
近くで見ればなおの事、がさつさや無粋なところは目に付く。その都度、呆れたり憤ったりするのを見ていた者には、とても今のような二人の姿など想像も付かなかっただろう。
外交でも恋愛でもエレガントな駆け引きが当たり前、優雅に振る舞いながら相手の喉元にいきなり剣を突きつける、そんな華麗な世界に生きる彼が、とてもではないが無粋な新興国ルートヴィッヒなど相手にするとは思えなかった。
 だがそんな世間の想像とは裏腹に、ローデリヒは急速にルートヴィッヒに惹かれていった。
何と物好きな──そんな陰口を叩くものもいたが、本人は気にも止めなかった。他人の目には奇異に映るかもしれないが、人は自分と異なる存在に惹かれるものなのだろう。
 最初は欠点と思われた朴訥さは、やがて率直という名の魅力に変わった。立居振る舞いはデリケートやエレガントという言葉とは程遠かったにせよ、彼なりにいつも精一杯の気遣いを見せてくれた。
 ルートヴィッヒの目が憧れや敬意を越え、恋する若者の熱いまなざしに変わっていくのにそう長くは掛からなかったが、ローデリヒにとってはそこからがもどかしい時間の始まりだった。
 ルートヴィッヒが熱い眼差しで彼を見ているのは周知の事実だったが、本人だけは誰にも気づかれていないつもりでいたらしい。
誘いかけても気がつかない鈍感ぶりに業を煮やしたローデリヒが優雅さをかなぐり捨て、「あなたが好きなので付き合いたい」とはっきり伝えたことでようやく二人の関係が一歩前進することになった。