夢が無い
「前々から診ている患者さんなんだが、経過がよくてボクもうれしいよ。若い男性なんだが、自分の夢が無いことについて、『頑張ろうとする僕の夢がバクに喰われる』と訴え続けていてね」
「それは比喩や言い訳じゃなくて?」
「本気でそれのようなんだよ」
「う~ん、何かのショックの後遺症だったのかしら。でも、今は元気になったのね」
「ああ、無事に行っているみたいだ」
「それはよかった。夢を食べるバクなんて、ただの迷信だものね」
「いや、それが頑固で頑固で全然消え失せなくて、逆に二頭に増やしたんだよ」
「ええっ!? どういうこと?」
「そしたら一頭で居座っていた太っちょのオスがダイエットを始めて、ついに二頭でドライブに出かけるようにまでなったんだ」
(了)