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長き戦いの果てに…(改訂版)【7】

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16.デトモルト



ルートヴィッヒはひとり鬱蒼とした森の中をさまよっていた。

なぜこんなことになったのか。
そんな言葉が脳裏をよぎる。考えても考えても答えは出なかった。

こんなことがしたかった訳じゃない。
ひと気のない森の中をいくら歩き回っても、あの日のことをいくら思い出しても、分析しても、反省しても、後悔しても……解決の糸口は何一つ掴めない。
要するに役立たずの自分を、自分でもどうすることもできないのだ。ならばいっそ──そこでまた思考は行き詰まり、堂々巡りが始まる。

──どうして迷うことがある?こんな下らぬ命でも惜しいのか?
ルートヴィッヒは自分をなじった。もうずっと抜け出せない迷路の中にいる。
兄たちならそこから連れ出してくれるかと思ったが、助けてはくれなかった。
俺自身の問題とは、どういう意味だ。
そんなはずはない、俺は生まれ変わることを望んだ。
それがたとえ、今の『自分』が消えてしまうことなのだとしても。

あれから何日経ったのか、どうやってここに来たのかもよく覚えていない。
気がついたらここにいたのだ。かの英雄の巨大像が祭られているこの地に。
俺はゲルマンの民と、彼らの生み出した『兄』たちによって作られた。
かつて民族を導いたという英雄の大立像が鎮座するこの地でなら、あるいは自分の進む道やあるべき姿を見極めることができるのではないか、何らかの導きを得られるのではないかと、すがるような気持ちでこの地をおとずれた。
だが期待したようなことは何ひとつ起こらなかった。
何の為にこんなところまで来たのか──

ひと気もなく静まり返った夜の広場で、ルートヴィッヒは空を見上げた。
降るような星空をそこだけ切り取ったように、黒々と巨大ヘルマン像がそびえ立っている。
この男はかつて我が祖父ゲルマンとくつわを並べ、ゲルマンの民を軍門に下らせようと襲い来るローマ軍と戦った。
ゲルマン民族の自立の為に雄々しく戦い、ローマ帝国の誇る軍隊を、あの「トイトブルクの戦い」で見事に破った英雄だ。
……だがついには戦いに敗れ、英雄ヘルマンはローマに連行され、処刑された。
いかに人々が熱狂して祭り上げようと、しょせんは過ぎた日の幻に過ぎない。どんなに立派な像だろうと、それはただのオブジェだ。ありがたいご託宣など得られようはずもないではないか──
ルートヴィッヒは自嘲した。あまりに馬鹿馬鹿しくて涙がこぼれた。
俺は一体何を期待してこんなところまで来たのか……
もしかしたら兄たちが再び姿を現してくれるのではないかと、かすかな期待を抱いていたが、それももう望み薄だろう。ここへ来てずいぶん経つというのに姿を現すどころか気配ひとつしない。
俺は……見捨てられたんだ。
俺には生きている価値などない。俺が消えれば、この国を導く新しい化身が生まれてくる。まだこの国は滅びる時ではないのだから。
俺はあの時、死ぬべきだった。
未練たらしく価値のない命にすがり、結局は生き恥をさらしただけ。
自分がいつまでも不安定でいれば、この国に悪い影響を与えかねない。こうなった以上、最後の始末くらい速やかにつけるべきだ。
ルートヴィッヒはあらかじめ目星をつけておいた森の奥の切り立った峡谷へと向かった。
深い谷底には細い川の流れが見え隠れしている。あそこならばいくら国の化身であっても、ひとたまりもあるまい……


搭乗手続きにはずいぶん手間がかかったが、ようやく乗り込むことができた。間もなく離陸する。これでやっとベルリンを発つことができるのだ。
ローデリヒはわずかに安堵感を覚える事ができた。
だがこれはまだほんのとっかかりに過ぎない。行方不明になったルートヴィッヒの捜索は簡単ではないだろう。
空港を出たらあらかじめ手配しておいた車に乗り換えて移動するが、目的地に着くのは恐らく夜になる。地の利もない場所で、夜間にむやみにさまよったところで、簡単に彼が見つかるとも思えなかった。
「大丈夫、ヨハン?」
後ろの座席から声がする。ヨハンの隣に座ったフェリシアーノが心配げに声をかけていた。
「こいつはなるべく眠らせておく、そうすれば消耗が少なくて済むからな」
ヨハンの顔をしたゲルマンがそう答える。
「目的地に着くまで起こすんじゃない。死んだように眠っていても、死んだわけではないから安心しろ」
「う…うん」
フェリシアーノが不安げに頷くと、ヨハンは糸の切れた操り人形のように、目を閉じてぴくりとも動かなくなった。
息は……してる。
鼻の辺りに手を近づけると微かながら呼吸が確認でき、フェリシアーノは安堵の溜め息をもらした。
「様子はどうですか?」
前の席のローデリヒがシートの脇から顔をのぞかせる。
「今は眠ってる。負担を減らす為に眠らせておくんだって」
「そうですか──」
しばし眠っているヨハンの様子を見た後、今度は隣へ目をやる。
「残念ながら話は聞けそうもありませんね」
いろいろと確認したいこともあったのですが…と零すと、ギルベルトが色めきたった。
「あん時、後で説明するとか、ぬかしたろうが!説明しろよ」
「何をですか」
「そいつのことに決まってるだろ!」
ギルベルトは親指をしゃくって、後ろの席で眠っているヨハンを指さした。
「……私にも正直言ってよく分かりません、なぜ彼が必要なのか」
ローデリヒはため息をついた。
「おじいさまはフェリシアーノに話したとおっしゃるだけで、詳しく聞かせては頂けなかったんです。ただ──」
「ただ、なんだよ」
「フェリシアーノがあんな顔をするのは初めて見ました。ああ見えて、昔からがまん強い子です。いくつになっても子供っぽいところはありますが、自分の都合でそこまで無理を通そうとするような子じゃありません。第一、あんな身体のヨハンをどうしてもつれて行くだなんて、何かよっぽどわけがあるんでしょう」
言い終わるか終わらないうちに、ギルベルトが怒声を上げた。
「そうじゃねぇ、俺が聞きたいのはじじいの方だ!」
「お爺様にその言い方は──いや、あなたには言っても無駄でしたね」
ローデリヒは諦めたような顔をした。
「言い出したら聞かない方ですからね、あなたもおじいさまも」
「余計なお世話だ!」
「そう言うと思いましたよ」
むっとするギルベルトをよそに、ローデリヒは話を続ける。
「あの方がわざわざあんな面倒なことをしてまで連れていくというんです。きっと何か理由があるんでしょう。断ることなんかできないですし、断って引き下がる方でもありませんから」
ギルベルトの口元がヘの字に曲がった。本来はもっと身軽に移動したかった。
ローデリヒはもちろん仕方ない。フェリシアーノも百歩譲って連れていくことに異存はない。同じ国同士だし、色々な意味で近しいというか親しい間柄だし、おそらくルートヴィッヒを見つけた時に役に立つだろう。
大体こんな民間機の座席を取るなんて回りくどいこともしたくはなかった。軍用機をチャーターする方法もなくはないからだ。(やや職権乱用のきらいはあるが、まあよくあることだ)
だが今回ばかりは事を大きくしたくなかった。