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北海道旅行記 六日目

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<釧路>
この旅も残すところあと2日となった。

そんなことを寝起きのぼんやりとした頭で実感する。

どんなに素晴らしい時間にも終わりはある。

それは意識しないようにすればするほど意識してしまうもので、しかしだからこそ、終わりがあるからこそ時間には価値がある。

今日は釧路、十勝を経由して、帯広を目指す。

バンガローを出て見上げると、灰色の雲が低く薄く敷き詰められていて、所々に点在する切れ間から青い空がのぞいていた。

まずは釧路の海鮮市場に行くことになっていた。

釧路も北海道有数の水揚げ量を誇る漁場で、勝手丼と名付けられたどんぶりが有名だ。

勝手丼という名前の通り、ご飯が乗ったどんぶりに好きなネタを勝手に乗せていく。

値段はネタを乗せただけ課金されていくシステムだ。

もちろんネタによっても値段が違うため、食べたい気持ちに忠実でありながらも理性も保たなければならない。

僕らは勝手丼を楽しむため朝ご飯は抜いておくことにした。

車の窓を開けると涼しい風が車内に入り込んできて、心地が良かった。

車を走らせること約1時間、市場は鮮魚を購入する地元客や勝手丼を楽しみに来た観光客でごった返していた。

勝手丼のお店もいくつかあったが、どれも同じに見えてしまいなかなか店を決められない。

細かい差はあるものの値段はほぼ一緒である。

やはり決め手は店の見た目と、店主の威勢の良さだった。

比較的小ぎれいにしていて、かつ押し付けがましくない威勢の良さを持った店があり、僕らはそこで勝手丼を作ることにした。

いくら、ウニ、まぐろ、青魚、イカ、貝類など、様々なネタがそこには並んでいて、店の明るすぎるくらいの照明がそれらをつやつやと照らしていた。

そのすべてがおいでおいでと手招きをしていて、なかなか選ぶことができない。

それらを目の前にした僕らの腹は、待ってましたとばかりに活動を始める。

欲望と理性がせめぎ合う。

僕はいくら、サーモン、まぐろ、ウニ、ほたて、しらすを選び出し、贅沢に白米の上に乗せた。

おおよそ理性は欲望に負けてしまったようである。

みんなも選び終えたようで、色とりどりのネタが丼の上に乗っている。

勝手丼には、新鮮なネタを乗せられるという魅力も勿論あるが、各々が好きなネタでアレンジできて「自分で作った勝手丼」という愛着を持たせる効果もあるかもしれない。

みんな必死に「自分で作った勝手丼」を写真に収めている。

釧路の市場の新鮮なネタであるという先入観を抜きしても、観光客を満足させるには十分すぎる味と雰囲気があった。

<十勝・ワイン城>
腹ごしらえを終えた僕らは、また車を走らせて、帯広へと向かう。

その道中には十勝があり、そこにワイン城があるので寄ることにした。

ワイン城の正式名は池田町ブドウ・ブドウ酒研究所。

ヨーロッパ中世の古城に似ていることから誰からとなくワイン城と名づけられたらしかった。

ワイン城は確かにヨーロッパ風のいで立ちで、重苦しい雰囲気を今にも泣き出しそうな空に放っている。

観光客はあまり見受けられなかった。

ワイン城見学コースは城のB1Fから始まる。

中は薄暗く少しひんやりとしていた。

さらにB2Fに下がると、地下熟成室になっており、ワイン樽が所狭しと並んでいた。

少しかび臭いような独特な匂いが、ワインの香りと入り混じって辺りに立ち込めている。

嫌な匂いではないではないが、アルコールにあまり耐性のない僕はそれだけで酔ってしまいそうだった。

1Fに上がるとワインの製造方法や歴史などが書いてあり、その傍らにお土産コーナーがあった。

試飲コーナーも併設されていたが、僕はあまりワインの味が分からなかったし、車の運転があったので飲めなかった。


<帯広>
ワイン城を後にしたころには時刻は午後4時頃だった。帯広のバンガローを目指す。

旅も6日目になるとバンガローでの寝泊まりもだいぶ慣れてきたようだ。

午後6時頃、帯広のバンガローに到着した僕らは管理棟でチェックインを済ませ、バンガローの中に荷物を搬送した。

バンガローが併設されている公園はかなり広く、バンガローの周りには木々が生い茂っており、少し薄暗く感じる。

バンガローで寝泊まりをするのもこれで最後であると思うと急にさみしい気持ちになってきた。

バンガローの中で僕らは荷物をまとめた。

1週間の旅だ。もっと荷物がかさばっていると思った。

確かに夏服なので衣類はあまり無い。

僕はもっとお土産類が多くなっていると思っていたが、よく思い返してみればこの6日間は食べてばかりだった。

それだけ北海道の景色と食は僕らを満足させていたということかもしれない。

荷物をまとめ終わった僕らは近場の温泉につかりに行くことにした。

温泉はバンガローから車で30分くらい行ったところにあった。

外観は温泉というよりスーパー銭湯に近い。

温泉の近くにあった食事処の海鮮で簡単に夕食を済ませ、温泉につかった。

温泉はじわじわと身体の中に入り込んでくるようで、一日の疲れが取れていく感覚が分かった。

露天風呂もあり、壁にはテレビがかかっていた。

少なくとも1時間は露天風呂でテレビを見て過ごしていたかもしれない。

こういう無駄な時間も旅には欠かせない。

さっぱりした僕らはバンガローへ戻る。

今夜は北海道最後の夜だ。僕らは星空を撮りにバンガローを出た。

周りには木々が生い茂っていて、星がよく見えなかったので、広場に出ることにした。

少し行くと木々が途切れて大きな広場が現われた。

見上げるとやはり空には無数の星々が瞬いている。

友人の一人が一眼レフカメラを持っていたので、それで星を撮影することにした。

どうやら星の撮影はまだ勉強中のようで手間取っている。

写真サークルに所属しているらしいのだが、あまりきちんと活動していなかったことが見て取れる。

星の取り方をネットで検索して試行錯誤していた。

写真は構図や光の入れ方など、撮り手の腕による部分も勿論大きいかもしれないが、一方でカメラは忠実で、確りした設定で撮ればある程度の写真になる。

コツを掴んだのか、カメラの液晶には光輝く星たちが写り込んでいる。

僕らは一列に並んで写真に写りこんだりして遊んだ。

カメラのシャッターを開いている間は動かないようにしなければならず、それが難しい。

動いてはならないと意識すればするほど、笑いは込み上げてしまう。

あと何年くらいこうしていられるだろう。

思えばこの5人が出会った高校1年生の頃から何も変っていないのだが、こうやってくだらないことで笑っていられるのもリミットがあるのだろうか。

僕らがこれからどんな人生を歩んでいくのかは本人にすらわからない。

就職をして、結婚をして、子供ができればこんなことをしている場合ではなくなってしまうのかもしれない。

できることならば何歳になったとしても今と変わらない気持ちで笑っていたい。

そんな風に思ってしまうのは、まだ社会の荒波を知らない僕の甘さなのだろうか。

そうしているうちに日付は変わっていて、僕は22歳になっていた。
作品名:北海道旅行記 六日目 作家名:きよてる