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はなもあらしも 道真編

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「道真くん。おはよう」
「お前は何やってんだ?」
「何って、練習だけど」
「昨日の俺の話し、聞いてなかったのか?」

 強引にともえの手から弓を引き抜くと、睨むようにともえを見下ろす。それに負けじとともえは顔をぐいと上向け、

「覚えてるわよ、笠原道場にぐうの音も出ないくらいの大差を着けて勝つ! でしょ?」
「その後俺はその足を早く治せ。と言わなかったか?」
「……あ。いや、でも今日は添え木して殴っても分からないくらい包帯巻き付けてるから大丈夫だよ?」

 どうやら忘れていたらしいともえの表情に、道真は大きくため息を吐き出した。

「そう言う問題じゃない。本当にお前は単細胞だな……いいか、今日は道場に立つな。絶対だ。代わりにこれやってろ」

 そう言って道真が差し出したのはゴムが結びつけてある棒だった。最初はぶすくれていたともえだったが、そのゴムを目にしてすぐに顔を元に戻す。

「これは?」
「腕の筋肉を鍛える道具だ。足の治療をする間、これを本当の弓だと思って頭の中で一連の動きを思い描きながら引くんだ」
「へえ。こんなのがあるんだ」

 感心したようにゴムを引くともえに、道真はほんの少し胸が揺らめく。

「いいからお前は邪魔をするな。大人しく隅っこに座ってろ」

 そっぽを向いてともえを追いやると、道真は一人弓を引き始めた。
 が、横から激しい視線を感じて手を止める。

「―――何だ?」

 苛立ち半分ともえに視線を寄越すと、今までにないくらいに嬉しそうに微笑んでいた。

「良かった。道場から出て行けって言われるんじゃないかと思ったけど、ここで練習しててもいいんだよね?」
「あ? ああ……」
「私、道真くんの所作が好きなんだ。だから見てるだけでも勉強になるし、しっかり盗ませてもらうからね」

 道真の心臓はその一言で確信を得た。
 どうやら本当にこの那須ともえという少女の事を好きになってしまったらしい。
 出来る事なら共に試合に出て勝ちたい。いや、勝たせてやりたいと、心から思った。