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はなもあらしも ~真弓編~

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 * * *


「えーっ!? 真弓さんって大学生だったんですか!?」

 朝食が済み、再び道場で練習をしようと真弓に声を掛けた所で、ともえは衝撃の事実を知って目を丸くしていた。

「そうなんだ、別にうちは名のある氏族ではないけど、学制が公布されたこともあって一応勉強もしておこうかと思ってね」

 明治の初期であるこの時代、大学で学びたいと思う人は増えて行っていた。しかし、学力の高い人間ばかりが通う大学生と聞いただけで急に真弓が雲の上の人のような気がして、ともえは尊敬と同時に少し引け目も感じた。

「そうだったんですか。それじゃあ今日は学校に行かれるんですね?」
「ごめんね。夕方には戻るから、それからまた一緒に練習しよう」

 申し訳なさそうに言う真弓に、これ以上残念な顔をしてはいけないとともえは笑顔を作り、元気よく送り出す事にした。

「大丈夫です! 真弓さんがお勉強を頑張っている間、私も弓を頑張りますから!」

 力を込めてそう言うと、突然、

「真弓兄さま、ともえさんの事は僕に任せて、勉強に集中してきてください」

 美弦が現れ、ともえを横に押しながらそう言った。

「美弦がともえちゃんと一緒に練習してくれるのかい? それは良かった。ともえちゃんの事、くれぐれもよろしく頼むよ」
「はい!」

 真弓がいなくなると、途端に美弦の表情が変化した。

「真弓兄さまと一緒に試合に出るからっていい気になるなよ」
「え?」
「僕の尊敬する真弓兄さまと馴れ馴れしくするなよって言ってんの」

 先ほどのまでの微笑みはどこへやら、これがあの美弦なのかとともえは目を丸くする。
 初めて美弦に会った時に微かに聞こえた言葉は空耳なんかじゃなかったのだ。

「あなた、猫被ってたのね!?」
「ふんだ。どうしてお前みたいな男女にいい顔しなきゃいけないのさ、ほら、この僕が直々にしごいてあげるから、道場に行くよ?」

 そう捨て台詞を残して歩き出そうとした美弦は、すぐにピタリと足を止めてともえを振り返って一言、

「僕の事、真弓兄さまに告げ口なんかしたらどうなるか、分かってるよね?」
「っ!」

 美弦の脅し文句に閉口し、ともえは負けてなるものかと地面を踏みしめた。