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長き戦いの果てに…(改訂版)【6】

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13.失踪


「本当は、彼が帰還して最初に私と過ごしたあの夜、すでに様子がおかしかった……」
「じゃあ、何でその時すぐに言わなかったんだ!」
ギルベルトは驚いてローデリヒの話を遮った。
「あの時はまさかこんなことになるとは思ってもみなかったんです。しばらく話したら落ち着いたように見えたし、翌朝もヨハンの名が出るまではごく普通だった。こうなると分かっていたら、私は……こんな……」
目の前に横たわるルートヴィッヒの寝顔は安らかで、あの苦痛に満ちた表情と比べると幸せそうにさえ見えた。
「何が……本当に彼の為になるんでしょうか……」
ギルベルトの目つきが一段と険しくなる。
「何だと?」
「私では彼の力になることができませんでした。彼の重荷を共に分かち合いたいと思いました。口にも出して伝えたけれど……」
ローデリヒは自嘲的な笑みに口元を歪め、疲れたような声を出した。
「私では力不足だったようです。それとも、そこまで信頼しては頂けなかったのでしょうか……」
「何だと……?」
それを聞いたギルベルトの目の色が変わった。
「お前、こいつがお前のことをどんだけ想ってたか知ってんのか?そんなんで恋人だとかほざくのか?──ふざけんなっ!」
思いもよらないギルベルトの剣幕に驚き、口を挟むこともできず、ローデリヒはただ彼を見つめた。
「最初っから俺は気に食わなかったんだ。だからお前みたいな遊び人はやめとけって、俺は言ったんだ!あいつときたらそんなことも聞きゃあしねぇ。いいか、よく聞け!こいつはな、お前と付き合い初めてから変わったんだ」
「変わった──」
「そうさ、変わったんだよ!あいつの人生には義務とか責務って言葉しかねぇんじゃないかと思うくらい、くそまじめで、楽しみとか趣味なんてひとっかけらもないやつだったのに、お前と付き合い出してから、初めて人間らしいとこを見せるようになったんだ。あいつの口から娯楽だとか、休暇なんて言葉がでたことは一度もなかった。非番の日だって、体を鍛えるか資料を読むかどっちかだ。あんなのは休んだとは言わねぇよ!そんなあいつが変わったんだ!」
ローデリヒは彼と出会ったばかりの頃の事を思い出した。
その頃の彼は堅物の朴念仁で、常に任務しか頭になく、自分の将来とか幸せについて考えるとか、何かを楽しむなどということは全く頭にないとしか思えなかった。今まで見たこともない不思議なタイプだったので、最初は興味本位からちょっかいを出し、やがて実直な人柄に深く惹かれて付き合い始めた事を。
「──だから俺は、お前らの事についてはいっさい口を挟まないことにしたんだ」
一気にしゃべると、ギルベルトは黙ってローデリヒを睨みつけた。
思いも寄らない言葉を聞いてローデリヒは返す言葉を失った。
彼を愛する気持ちには少しの嘘偽りもない。彼は愛しく、好ましく、今では自分の一部にすらなっていると思う。また自分が彼を変えたのだという自覚もある。厳密に言うなら、本来持っていた彼の好ましい性質をローデリヒが引き出しただけ、というべきかもしれない。いずれにせよ、変えたのが自分であることに違いはない。
自分だけのものであって欲しいとも願っていた。しかし彼も自分をそんな風に思ってくれているのかどうかは、どうしても確信が持てなかった。
これまで誰かを本当に愛した事がなかったから、そんな風に他人に愛されることなど信じられなかったのかもしれない。
「今更言うまでもないが、俺は元々お前らの交際には反対だったんだ。分かってんだろう?お前みたいな軽薄なナンパ野郎はヤツにふさわしくない」
真紅の瞳に宿るのは見る者全てを凍てつかせ、鋭く切り裂く氷の刃。
「待ってください、ギル──」
「俺が間違っていた」
「違うんです!私はそんな気持ちでこの人と──」
 見苦しいと思われても構わない、何としても自分の気持ちを伝えなくては、と必死で叫んだが、ギルベルトは最後まで話すことも許さなかった。
「この部屋から出ていけ、今すぐにだ。だが自由にしてやる訳じゃないぞ、屋敷から勝手に出て行くことは許さない、それはこれまで通りだ。だがこいつには二度と近づくんじゃない」
「待って!お願いです、話を聞いて──」
「何度も言わせんな!」
ローデリヒは必死で食い下がろうとしたが、返されたのは有無を言わさぬ一言だった。


* * *



──いいのか、ルートヴィッヒ?
「何の事だ」
物憂げな表情で答える。

──分かってるくせに。素直じゃないな

「俺には関係ない」

──無関心を装っても無駄だ。俺たちには全部分かっている

「言ったろう、俺には関係ないと。そんなことより本当に俺の願いを叶えてくれるんだろうな」

──もちろんだとも、本当にお前が望むなら

「……どういう意味だ?」

──今言った通りだ。もう一度良く考えろ

「なぜだ」

──望みを叶えるのは簡単だが、そうなったらもう二度と元には戻れない

「元に戻る必要なんかない。俺は完ぺきな存在になる必要があるんだ。それだけが望みだ。くだらない感傷など俺には不要だ。むしろ害悪とすら言える。それが元であんなミスを犯したんだ」

──そうか。でも、お前を心配している人たちのことはどうする?

「一時のことだ。それに死ぬわけじゃない」

──確かに、死ぬわけじゃないし記憶を無くすわけでもない。だが今まで育んで来た『心』はほぼ間違いなく、失うことになるだろう

「心?完璧な存在にそんなもの必要ない。俺の仕事は部下を守り、国民を守れる完璧な国になることだ。それが俺の存在する唯一の意味であり、義務だ」

──義務、か

「そうだ。俺はその為に生まれたんだ。俺は、ライヒだ…そうあらねばならない。俺にはその義務がある」

──誰がそう決めた?

「誰が、決めただと?国民がそれを願っているんだ。兄さんたちだって、その為に消えたんだろう、俺の為にだ!」
被っていた無表情の仮面が剥がれ落ちる。
ルートヴィッヒは歯を喰い縛り、涙を流した。
なぜ涙がでるのか、何を泣くのか、自分でも分からなかった。
全くの不本意だが、どうしても止められない。

──そう……その方がずっとお前らしい

姿は見えないが、それ──自分を生み出すために消えて行った兄たち──は微かに笑ったように感じた。
「なぜだ、今になって何でそんなことを言う、なぜ俺の邪魔をする?俺の願いを叶えるためにここへ連れて来たんだろう、それが皆の願いでもあるはずだ」

──お前が呼んだから、我らはお前の手を取った。お前はライヒであり、また我ら自身でもある。お前の呼ぶ声に我らが呼応するのは自然なことだ

「ならどうして今すぐ願いを叶えない!」

──言っただろう、お前が本当に望むなら、と

「望んでいる!」

──まだだ、足りない……

「だから何がなんだ?」

──お前はなぜ泣いているんだ、願いが叶うのに

「それは……!」

──お前にはまだ迷いがある。少しでも迷いがあれば願いはかなわない。よく聞けルートヴィッヒ

「……」

──もうあまり時間がない。お前の肉体をいつまでも、あのままにしておくことはできない。だから選べ、ルートヴィッヒ。
──本当に全てを捨てて生まれ変わるのか、今のままでいるのか