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長き戦いの果てに…(改訂版)【4】

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10.バイルシュミット館




「おい、帰ったぞ!」
いつものように玄関先に愛車を荒っぽく乗り付けると、館の主ギルベルトが姿を現した。
「お帰りなさいませ、お館様」
家令マテウスが、これまたいつものように抜かりなく出迎える。今日はひとつだけ、いつもと違うことがあった。
「おや?お館様、どなたをお連れですか?」
ギルベルトの腕にはやや小柄な若い男性が抱きかかえられていた。眠っているらしく、目を閉じて身じろぎひとつしない。
「愛すべき我が国民の一人にして、我が軍の忠実な兵士だ。平たく言や、ヴェストの部下だな」
「ルートヴィッヒ様の部下ですか。ギルベルト様、またお戯れを……」
「うるせえ!余計なことを言うな、今日は俺の客だ。客用寝室へ運んどけ。丁重に扱えよ!」
「かしこまりました」
年輩の家令は特に驚く様子もなく恭しく主の命を承ると、すぐに別の召使いを呼んで青年を運ばせた。青年はこの騒ぎの中でも目を覚ます様子がない。眠っているというより気を失っているのか、それとも一服盛られたか……
「あの方の気まぐれにも、困ったものです」
マテウスはため息と共にそんな言葉を漏らした。

ギルベルトが足音高く自室へ向かった後、すぐにローデリヒが姿を現した。
「いったい何の騒ぎですか、騒々しい」
まだその場にいたマテウスが恭しく頭を下げるとすぐに謝罪した。
「これはローデリヒ様、お騒がせして申し訳ございません。お館様のいつもの気まぐれでございますよ」
「ああ、またですか。全くあの男と来たら、よくこんな時に……」
ローデリヒは顔をしかめた。
「今度はいったいどこの誰なんです?」
「お名前はまだ伺っておりませんが若い男性です。何でもルートヴィッヒ様の部下でいらっしゃるとか」
「ルートの──」
紫の瞳がほんの一瞬だが、うっすらと陰りを帯びた。
「そうですか、ありがとうマテウス。あなたもあんな主人を持ってご苦労ですね」
家令は躾の行き届いた素晴らしいお仕着せの笑顔を浮かべた。
「ローデリヒ様、お心遣い、心より感謝いたします。ですがこれが私の職務でございますので」
恭しく一礼するとマテウスは立ち去った。



* * *



……目が覚めると、見知らぬベッドの上にいた。
兵舎のベッドがこんなにふかふかな訳がない。安い公娼館もだ。まだ夢を見ているんだ、きっと。こんないい夢ならもう少し見ていてもいいか……
夢見心地で辺りを見回すと、見たこともない豪華な調度品が並び、壁には美しい絵や、立派なタペストリーが飾られている。
おかしいな、いくら夢でも俺にこんな想像力あるわけないよなあ──そう思った瞬間、ヨハンの心臓がドキンと鳴った。
まさか、夢じゃないのか?なら、ここはどこだ?
慌てて眠りに落ちる前の記憶をたどる。非番で兵舎にいたらバイルシュミット大佐に呼び出された。大佐の部屋で例の件についてしつこく聞かれ、詰め寄られて、いきなりキスされた。
……そこから先の記憶が、ない。
ということは、自分の部屋で寝たんじゃない、あそこで気を失ったんだ!
そこに至って、ようやく今、自分が置かれている状況に気が付いた。
どうしてこんなところにいるのか。こんな立派な部屋はどう考えたって基地の建物ではない、ならば答えはひとつ。
考えたくもないが、恐らく気を失っている間に大佐の館へ連れて来られたのだ。
「俺のモノになれ」なんて言ってたが、まさか本気じゃないだろう?
……じゃあ何で、こんなところに俺なんかを……?
まさか──冗談じゃない、どうしよう!
慌ててベッドから起きあがると、更に困ったことに気がついた。
裸だ。
シャツやズボンどころか、下着一枚、身につけていない。
慌てて辺りを見回したが着ていた服は見あたらない。部屋を探してみたが、衣類のたぐいは何も置かれていないようだ。これはわざとか?一体何の為に?俺への嫌がらせか、それとも……
途方に暮れていると、突然ドアが開いた。
これから何が起こるのかと思わず身構えると、入ってきたのは件のバイルシュミット大佐だ。
「よう、気分はどうだ?」
そう言ってニヤリと笑う。
「そろそろ目が覚める頃だと思ったぜ」
ヨハンは慌ててベッドからシーツを引き剥がすと身体に巻き付けた。
「こ、ここはどこですか?自分は何でこんなところに──」
「安心しろ、ここは俺の屋敷だ」
安心できるわけがない。ヨハンは更に身を堅くした。
「言ったろう?お前はもう俺のモノだ」
「……じ、自分は…誰のものでもありませんっ」
ギルベルトはフンと鼻で笑った。
「面白い事を言うな」
「面白いだなんて、そんな……!」
ヨハンはパニック状態になった。
「こ、これっ…これはどういうことですか?俺の服はどうしたんですか?まさか、何かしたんですか?」
上官の話を聞く余裕もなくして矢継ぎ早に質問を放ったが、ギルベルトは別に驚くでもなく余裕の笑みを浮かべている。
「……自分の身体に聞いてみたら、どうだ?」
気を失う前にされたあのキスを思い出した瞬間、身体がかっと熱くなった。見る見るうちに首から胸まで真っ赤に染まるのを見て、ギルベルトのニヤニヤ笑いが一段と大きくなる。
ヨハンは口元をきつく結び、目に涙を浮かべたが、必死で目の前の上官を睨みつけた。
「なんで…俺を、こんな……!」
まともな言葉にもならない。
ギルベルトはそこに至ってついに堪えきれず吹き出した。
必死になっているヨハンの姿がおかしくて堪らないといった風で、豪快に高笑いを響かせる。
「な、何がおかしいんですかっ!?」
「何がって、お前──」
ギルベルトは話の途中でまた我慢できずに吹き出す。
「何かされたかどうか、ほんとに自分で分からないのか?」
「え……っ」
それを聞いた瞬間、身体の力が抜け、ヨハンはかくんと床にへたり込んだ。
「おっ、どうした大丈夫か?」
ギルベルトはまだ笑いながら手を差し伸べる。
「何だお前、しっかりしろよ、ほら!」
手を引いてやるが一向に立ち上がる気配がない。
「だ、ダメだ……立てません」
腰が抜けて立てなかった。
こんなことは生まれて初めてだ。恥ずかしくて顔から火が出るとはこういうのを言うのか。自分は何を勘違いしていたのか、大佐が自分に何かするなんて、そんなことがあるはずないのに一体何を期待したのか……
ん、期待した?──それっておかしくないか?でも……
頭の中がパニックで、自分でも何が何だかよく分からないが、どうやら何もなかったらしい。おかげで少し気持ちが落ち着いた。
だが安堵したのも束の間。
「そうかそうか……まだ明るいからと思ったが、それならもう、今から頂いちまうか」
ギルベルトは恐ろしげなことを口にすると、細く見える割には力強い腕でヨハンを軽々と抱き上げた。光る紅い瞳はもう少しも笑っていない。
「ええっ?……ま、待って、待ってください。お願いれすから降ろして──」
恐怖のあまりにろれつが回らなくなった。あっという間に元のベッドの上に抱き下ろされる。ギルベルトがヨハンに覆い被さるとスプリングがギシッと鳴った。馬乗りになって凄まじい力で押さえつけられる。逃げようとしたが、情けないことに腰が抜けて動けない。
「い……嫌だ…許し、て……」