青
理由を聞かれれば、彼は面倒くさそうに答えた。
「青い空とか青い海とかさ、嫌いな人っている?」
子どもの頃から、青色が好きだった。特撮ヒーローでは、青色のキャラクターをひいきした。
大学に入ると、ファッションを青で固めたのみならず、髪までも青く染めた。買って乗り回した車のボディカラーも青だった。女性と初めて付き合って、「君の名前に青という漢字が入っているところが好き」と打ち明けたのが冗談ではないらしいことに気付かれたあたりで逃げられたりもした。
社会人になると、「放水によって消火活動をするのだから消防車は青色であるべきだ」という主張を総務省消防庁に送ったり、「ポストをとにかく青くすべきだ」という主張を日本郵政に送ったりもした。
そしてついに青い瞳の女性を口説き落として結婚し、青森県に転居して真っ青な家を建てる悲願を叶えた。
青魚と青汁を好んで一生青春だと意気込んでいた彼も、老いて病床から出られなくなった。
「俺の青道楽のために、お前には迷惑かけたな……」
「いいんですよ」
夫人は首を横に振った。
「済まないが、最後のわがままを聞いてほしい」
「なあに?」
夫人に見つめられながら、彼は答えた。
「……俺を棺に入れる時には絶対に、仰向けで頼む!」
(了)