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長き戦いの果てに…(改訂版)【3】

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7.アルノーとテオ


ルートヴィッヒはじっと考え込んでいるかと思えば独り言のように話し、また黙り込む……ひたすらその繰り返し。ローデリヒはそれでも口を挟むことはせず、黙って話を聞いていた。するとルートヴィッヒが突然思い出したようにこちらを見た。
「あの時フェリシアーノと何を話したのか、よく覚えてない。あいつがずっと泣いてたのは覚えてるが……」
「あの子は元々泣き虫ですからね」
ローデリヒはそう言って口元を少し緩めたが、ルートヴィッヒは、にこりともしなかった。
「俺があんな惨めな姿になったのがきっとショックだったんだろう」
「大切な人が傷ついたら誰だってショックを受けますよ。戦争に負傷はつきものです。自分を惨めだなどと言うものではありませんよ」
ローデリヒは気になってそう嗜めたが、ルートヴィッヒは黙って目を逸らしただけだった。
──私ではあなたの助けにはならないのですか?そんなに私は頼りにならないですか?
喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。そんなことを言っても何の役にも立ちはしない。
フェリシアーノが駆け込んで来た日の事を今になって突然思い出した。あの時はまさかこんな事になるとは思ってもみなかった──
『ルートが死んじゃう!……俺じゃダメなんだ、あなたならきっと──』
あの言葉、あの目、必死な表情──あの子もまたルートヴィッヒのことが好きなのだ。それも単に友として慕っているのではない、私と同じようにだ。私たちの事は、今更知らないものもない公然の秘密だから、何も言いだせずにいたのだろう。ルートヴィッヒはあの通りの朴念仁だから、はっきり言わなければ永久に気がつくことはない。
報われないと知りながら、あの子はそれでも彼の事を思い、あえて私に助けを求めてきたのだ。
当の本人は覚えてはいないようだが、何を話したのかは想像に難くない。優しいあの子を前にして、弱り切っていた彼は抑えきれずに何もかもしゃべってしまったのだろう。それ以来ずっと、あの子は一人であんな不安を抱えてきたに違いない。
かわいそうなフェリシアーノ……そしてかわいそうなルートヴィッヒ。
ローデリヒは心ひそかに自分の無力を嘆いた。
──フェリシアーノ、正直言って、私にも彼を助けることが出来るかどうか分かりません。もちろん私に出来る事なら、何でもするつもりですが……
ルートヴィッヒの独り言がまた始まった。
「あの後、目が覚めてから俺はできる限り誰とも会わないようにした。あんな姿を見せても部下たちを却って不安がらせるだけだからな」
そう言って遠い目をすると自嘲気味に薄く笑う。

ようやく面会謝絶が解けたというのにルートヴィッヒは自分への見舞いを全て拒否した。病室に入るのは医師や看護士の医療関係者のみとし、それ以外には身の回りの世話をする為にヨハンだけが入室を許可された。
『自分は大丈夫だからもう心配は要らない。ただしばらくは治療とリハビリとに専念したいので、緊急事態以外は誰にも会わない。全員必要な業務に励むように』
隊長の容態を心配する兵士たちに伝えられたのは、そんな素っ気ないメッセージのみ。普段から末端の兵卒とさえコミュニケーションを絶やさないルートヴィッヒがこんな事を言いだすなど不審に思うなという方が無理だった。部下たちはにわかに色めき立ち、ただ一人側付きを許されたヨハンに集中砲火が浴びせられることになった。
「あれはいったいどういう事だ?」
「隊長の口からそんな言葉が出るはずないだろう?」
「……隊長は、本当にそんなに悪いのか?」
「お前、何か隠してるんだろう、正直に言えよ!」
「そんなこと、ありませんよ」
ヨハンは何事もなかったかのように、さわやかな笑顔でそう答えた。
「一時はかなり危険な状態だったのは確かですが、傷はもうずいぶん良くなりましたし、順調に回復されています。軍医もそう言ってたでしょう?ただ早急に復帰するために治療とリハビリに集中しなくちゃならないのも確かです。隊長は一日でも早く現場に復帰したいと必死でがんばっておられるのだから、どうかそっと見守ってあげてください」
あちこちで取り囲まれ、何度もしつこく問いつめられても答えは同じ。そうまで言われては黙って引き下がる他ない。
あまりにも理路整然とした紋切り型の回答に不審を覚える者もなくはなかったが、いくら脅しても、泣き落としをかけても、彼の不自然なまでの笑顔も返答も少しも変わらなかった。
実際には重篤なのは体ではなく、むしろ心の傷だ──口では部下たちにこれ以上心配をかけたくない、一刻も早く現場復帰して、元気な姿でみんなを安心させてやりたいと言いながら、暗く沈んだその表情は、今は誰にも会いたくない、こんなみじめな姿を見られたくないのだと言葉よりも雄弁に語っていた。
ヨハンはそんなルートヴィッヒを必死で守ろうとしていた。これまで何かにつけて自分を守り助けてくれたこの人を、今度は自分が守らなくてはならない。
だがどうすればいいのだろうか。何をすれば隊長の心が元に戻る為の手助けができるのか、いくら考えても今は何も思いつかなった。
それから間もなくルートヴィッヒは病室でしゃにむにリハビリを開始した。
丸一か月以上も寝ていたので元々は鍛え上げた肉体といえども、すっかり筋肉が落ちてしまっていた。不本意ながらまずは立ち上がり、歩く、という基本的なところから始めなくてはならない。全身の筋肉を一気に鍛え直すための過酷なトレーニングが始まった。
身体の動かし方さえも一から思い出さなくてはならず、歩いては倒れ、倒れてはまた立ち上がり、をひたすら繰り返した。全身はあざだらけになり、突然の無理な運動が原因で高熱を出して倒れることもしばしばで周囲の人間をはらはらさせた。
「いくら国家様だからと言って無茶しないでください!普通の人間なら死んでもおかしくないところですよ」
「普通の人間なら……だろう?俺は違う。今、お前がそう言ったじゃないか。こんなことぐらいで俺は死にはしない」
ようやく傷が癒えて体調も落ち着いたばかりなのだから無茶はしないように、との軍医の忠告は完全に無視された。
リハビリと言えば聞こえはいいが、ヨハンの目にはまるで自分を苛めようとしているようにしか見えず、大切な人のそんな姿を見るのは耐え難かった。
──隊長は今の自分をどうしても許せないのだ……
心にも体にも容易に癒えない傷を負ったというのに、その全てをしゃにむに振り払おうとする姿は痛々しいとしか言いようがなかった。
不注意から作戦に失敗した上、腹心の部下たちを喪い、自分も身動きならない重傷を負うという大失態。ルートヴィッヒはこれまで、そのような過ちを犯したことは一度もなかった。自分のミスで死に至らしめた部下たちにも、ここまで教え導いてくれた兄にも顔向けできない──彼にしてみれば決してあってはならないことだった。

ヨハンは心の中でひっそりとルートヴィッヒに語り掛けていた。