◢◤ TH eFLATLAND ◢◤
プロローグ::世界は誰が殺すのか
考えたことはないか?
世界は誰のモノなのか?
世界は何色で出来ているのか?
セカイは誰がコロスのか?
とかそういった諸々。世界というモノのこと。
ソレに答えがあろうがなかろうが、順調に艶めかしく世界は廻っていく。
ところでそんな廻っている世界は1つじゃない。
そう、目の前に広がる世界だけじゃないって話だ。
また別の世界があり繋がっている。いくつも、幾重も。連なり塊となり漂う。
多元界――マルチヴァース。
だが、まだ知らない。この世界の住人は。
この世界、この街 ーー 八華都市がそんな多くの世界との繋がり、それら世界同士の一大中継地であり大遊戯場であることを。
〈フラットランド〉と呼ばれているなんて。
しかし知らなくとも1日は滞り無く始まるし朝日は昇る。
そう、1日が始まる。
繋がる世界すべてに等しく一日は始まる。
「なんなんじゃ! 叩き起こすようなマネしおって! 酒が抜けておらんから吐きそうじゃ! うぅぅ」
多元界――マルチヴァース共通時間 6時25分。
いきなり小太りの中年男の汚らしい怒号から始まって申し訳ないが、仕方がない。
そんな一日の始まりだってあるということ。
この男はマルチヴァース全体とその中継地であり中間の地である八華都市を管理・運用している組織、
【多元界連盟】の事務総長を務める男。
二日酔い気味の頭を重たそうにしながら腹を揺らしてふらついてるけど、割と重要なポジション。
ちなみにマルチヴァース共通時間というのはこの世界、つまりはニッポン時間のこと。
八華都市を必ず中継してマルチヴァースの世界同士繋がりその地がすべての中間となるならこのニッポンにある八華の時間を共通とするのが一番いい。
という結論に達して数百年前だかに制定された。
いまじゃわざわざマルチヴァース標準時とか言わなくても時間と言えばニッポン時間という程当たり前になってる。
さらに言えば共通言語もニッポン語だ。
多元界だけにありとあらゆる言語がある。
それらに精通するのはほぼ不可能。ということでやはり共通時間と同じく理由で原語も統一されている。
それはニッポンの八華都市がすべての中継地だからという理由だけではない。
このマルチヴァースの頂点に君臨する世界。
ロザリアという世界でも、その世界固有の言語と合わせて、ニッポン語と同様の言語が使われ時間の流れも同じだからだ。
いまじゃ母界語を話せずニッポン語だけを話す人種も多い。
八華の住人がそれを知らなくても、かなりの昔からそれが事実として存在している。
「何事じゃ。どれだけ緊急なんじゃ? こないだの世界間渡航失敗による30名だかの行方不明よりもか?
んん? あれだ、ほれ、〈アーネスヴェーダ〉からのドラゴン迷い込み事件よりもか!?」
酒臭い息を撒き散らしながら不機嫌アピールを全身でする事務総長。
なんならまた酒を飲み出しそうな勢い。
「比ではありません…これに比べればあんなモノは極々小事かと…」
「な、なんじゃと? な、なにがあったんじゃ?」
「ロザリア王が行方をくらましたと……」
報告者の言葉に一気に酔いも、眠気も醒めていく事務総長。
醒めるどころか完全に青ざめている。
多元界共通時間 8時10分。
すべての多元界連盟議員が招集され緊急議会が立ち上げる。
もちろん議題はひとつ。
◀ロザリア王不在によって予想される動乱への対策▶
「いまこの時期にロザリア王が行方知れずとはいかなることか」
「あの王のことだ。気まぐれではないか? ひょっこり戻ってくるのでは?」
「それはそうかもしれんなー。元々放浪癖のある王ゆえ」
「ヒョッコリってどうゆう意味だったかのー?」
「それはあれですよ、ヒヨッコ的な……いやそこは問題ではありませんよ」
「戻る戻らんに関わらずじゃ。これで次期王座を巡る争いは激化し加速するぞっ」
「……ふむ。マルチヴァースの行く末にも大きく関わる……」
「何らかの対応をせんと危険な状態になる」
「だから予算削減などしないで連盟の増員をしろとあれ程言っただろう!」
「増員してもたいして変わらんわ! ロザリアの王座案件だぞ! 誰が対応できるんだ!」
「そうだ! 戦争だ、戦争! 戦争が起こるんだ!!」
「何を慌てておる……? 我々の新たなる神の頂点が誕生するだけであろう? 今までと変わりなくロザリアを神と崇めておけば良いこと」
よく通る透き通った声が怒号渦巻く議場に響き静寂。
「マルチヴァースはロザリアという全能の神々によって存在している。
それを忘れぬことだ。貴殿ら些か無礼であるぞ」
さらに続く言葉。
「あっ……いやしかし……戦争が起こるのは……」
「神々が起こすのであればそれは恵となる」
恐怖混じりの静寂が場を支配する。
ある意味では無理もない話だ。
マルチヴァースだとか言って数多の世界が連なってるとは言え……
いま、議題に上がっているロザリアは別格中の別格。
神と崇められている。
それ程このマルチヴァース全体へ強力な支配権を持ち、それを裏付けるチカラもまた段違いだ。
マルチヴァースはロザリアによって支配されている。それが現実。
その王が行方をくらます。
次期王座を巡る戦争が激しさを増す。
それはマルチヴァースにとっての戦争。
戦争が始まる。
だから聞いたんだ。
世界は誰のモノなのか?
世界は何色で出来ているのか?
セカイは誰がコロスのか?
作品名:◢◤ TH eFLATLAND ◢◤ 作家名:リンねりんリン