バイクのイタい話(おしゃべりさんのひとり言 その34)
バイクのイタい話
(このシリーズも34話目になりました。34って数字にちょっとした思い入れがあります)
高校の頃、バイクに憧れてた。
友達何人かが中型免許を取って、250~400CCクラスのバイクを持ってたので、後ろに乗せてもらうこともあった。
生身の体で時速100キロを超えると、気分が高揚する。
当時はレーサーレプリカと言うタイプのスポーツバイク全盛の時代で、ホンダ、スズキ、カワサキ、そして僕が欲しかったのは当時の最新型、ヤマハ『FZR400』っての。
僕はどのバイクでも走行音を聞いただけで、どの車種か言い当てられるぐらい好きだった。
だから(僕もっ!)と思い、中華レストランでバイトして、そこそこのお金を貯めたんだけど、親に反対されたので、自分でバイクは買えなかった。
気を寄せていた女子が誰かの後ろに乗って、旧型の『FZ400』で走ってるところを目撃してしまった。
ものすごく切ない気分になった思い出がある。
心が痛い痛い。
たまに友達とは、鈴鹿サーキットまで遥々、バイクレースを見に行ったりもしていた。
当時、まだ新人だったグランプリライダーで、ケビン・シュワンツという選手がいたんだ。
そのライダーのゼッケンが『34番』
名前を知ったばかりだったけど、初めて鈴鹿に日本GPを見に行った時、偶然彼に逢った。
僕らは予選からキャンプ場に3泊してたんだけど、たしか決勝レース前日の夜、サーキット内のボウリング場で遊んでたら、なんと彼が、隣のレーンにチームクルーと共にやって来たんだよ。
なぜか俳優のパトリック・トミタ(映画『ベスト・キッド』の空手の達人役)も一緒にいたけど。
僕は高2の時、アメリカに短期留学してたので、ちょっと英語で話すことが出来たから、チャンスとばかりに声をかけた。
するとケビンはとても気さくで、ゲームで勝負しようと言われ、大勢のギャラリーに囲まれながら、僕らは大喜びでボウリングを楽しんだ。
負けたけど、はっちゃけたケビンに盛り上がって、3ゲームほどしたと思う。
その後、ホテルに戻る彼らに付いて、ボウリング場を後にした時、ケビンは土産物を売っているブースで、彼のワークスチーム『PEPSI・スズキ』のステッカーを見付けて爆笑してた。
更にその横のラックにあった、ひらがな一文字ずつのステッカーに興味を示したので、僕が『け』『ひ』『〝』『ん』を選んであげると、喜んでそれを買ったのだ。
そして決勝レースでのこと。
会場の大画面スクリーンに映った彼のヘルメットの後部に、『けびん』と貼られていた。
結構シュールで痛いセンス。
でも僕はものすごく興奮してしまった。
そしてその日、優勝したのは、ケビン・シュワンツ。
当然大ファンになるに決まってるでしょ。
僕らは翌年の日本GPでも、毎晩ボウリング場で張り込んだ。
思った通りその年も、ケビンがボウリングをしに現れた。
他のファンもいっぱい来てたけど、僕らはすぐに気付いてもらえて、またボウリング対決をしたんだ。
ちなみにケビンは、この年も決勝レースで勝利した。
その後もなぜか鈴鹿でばかり優勝する。
でも海外のレースじゃ、危なっかしい転倒が多かったけど。
それから4年後、彼はついに年間タイトルを手にし、ワールドチャンピオンにもなった。
痛いけどすごい人。
話は変わるけど、自分でバイクを買ったのは、アラフォーになってから。
大学時代にもヤマハの原付には乗ってたけど、今回のやつはちょっと違うんだ。
ずっと憧れてたのはスポーツタイプだったけど、(もうこの歳では難しいかな)と思って、ちょっと妥協した。
『ジレラDNA180』イタリア製の小型スポーツバイクなんだけど、駆動系ミッションはオートマチック。
つまり普通のバイクに見えるスクーターって感じ。
妻でも簡単に乗れるやつ。
皆から「なんでイタリアバイク?」ってよく聞かれた。本当に誰もがそう聞いてきた。
海外の知り合いには、「バイク王国の日本なのに!」と残念そうに言われた。
そうしてまでも、それに乗りたい理由・・・僕は特に考えてなかった。
形が気に入っただけ。日本にはスポーツバイクの形したスクーターってないんだもん。
それなのに「痛いヤツ」扱いされる。
登録ナンバープレートは、かつてケビンの代名詞だった、今やGPの永久欠番『34』が奇跡的に取れた。
排気量が小さいので、最高速は125キロぐらいまでしか出ない。
デザインは割と奇抜で、ロボットに変形して宇宙人と戦えそう。
だから僕は、色を自分好みのデザインで塗り直すことにした。
当時、イラストの仕事が発展して、工業デザインも手掛けていたので、バイクのデザインに挑戦してみることにしたんだ。
大学時代には、オリジナルのヘルメットならデザインして、製作したことはあった。
駐輪中に盗まれたけど。
バイクのデザインとなると、少し話が違う。
イメージを元々の凹凸にうまく合わせられるか、というのが技術的な課題。
この時初めて、パソコンでデザイン画を描く練習台にしてみた。
原案は数パターン作ったけど、昔から好きだった変形ロボットアニメの『マクロス』に出てくる戦闘機『バルキリー』を基に描いたのが、一番評判良かった。
白を基調に、赤と黒のライン。流線形に沿わして描き、ストーリーに出てくる部隊のロゴやエンブレム、キャラクターのサインなども配置した。(本作扉絵参照)
塗装も自分でやってみた。こんなお遊びのために、業者に頼むお金がもったいなかったから。
結果、満足の仕上がり。
誰に見せても「これ売れるよ」「元々そういうデザインだと思ってた」って言ってもらえる。
ツーリングに行っても、「これどこのバイク?」って他のライダーに声をかけられる。
イタリア製スクーターって言ったら、みんな驚いて写真を撮っていく。
いいデザインだったけど、数が極端に少ないバイクなので、商品化は考えなかった。
今はもう、車庫で眠ってる。
アニメのキャラクターを車に描く『痛車』ってあるけど、このバイクもそれに近い。
よく考えたら、イタリア車でやったら、『イタ車の痛車』だったんだな。
つづく
作品名:バイクのイタい話(おしゃべりさんのひとり言 その34) 作家名:亨利(ヘンリー)