ヤマト航海日誌5
2021.01.15 天国のクロへ
私は家で飼っていた犬を殺した人間です。
雑種だったけど、いいやつでした。でも、私が殺しました。家に来たのは私が9歳、あれが生後半年くらいで、家族の中で主に私が道を散歩させていました。
『殺した』と書きましたが、本当に殺したわけではありません。私が20、あれが11でもう老犬になりかけていたその日も私が散歩させていると、野良犬が何匹か寄ってきたのでしばらくの間、綱を放して遊ばせてやったのです。すると犬は翌日から元気がなくなり、私が「どうしたんだよ。散歩に行きたくないのか?」と言っても小屋から頭を出すだけでした。
そしてその数日後に死にました。医者に診せるとジステンパーだと言われました。ジステンパーのウイルスを野良犬に伝染(ウツ)されたんだろう。ジステンパーは仔犬の病気と思われているが実は違う。犬が若くて元気なうちは感染してもまず平気だが、年を取ってウイルスに入られるとまずダメなのだと。ウチの犬は仔犬のときに予防接種を受けていましたが、その効力は切れていたのです。
だから死なせたのは私です。綱を外すべきでなかった。まだ何年も生きられたのに、あいつの命を私が奪ってしまったのです。
そのことで私を責めた者はおらず、私もわざわざ自分から「おれが殺した」なんてこれまで言ったことはないのですが、でもそうです。おれが殺した。未だに記憶の中であいつに会うたびに、許してくれ、おれがお前をと言わずにいられません。けれどもあいつはなんにもわかっていない顔で、私に尻尾を振っています。私は生きている限り、この呪いを払うことはできないでしょう。
が、今ここにこんなことを書くのは犬のジステンパーが、人にとってのコロナウイルスと同じだからです。
同じですよね。ウイルス性の伝染病で、若くて元気なら感染しても発症しない〈キャリア〉の状態でいられるが、年を取って伝染(ウツ)るとまずい。ウチの犬の場合には、死の責任が私にあるのがはっきりしてます。だから罪を背負うしかない。私は一生、犬を殺した罪を背負って生きていくしかありません。
が、コロナはどうでしょう。同じなようだが、果たして本当に同じでしょうか。
今のテレビはあなたに向かい、自分の親に近づくな、アナタが親に近づくと親は死ぬのだ、それはアナタが殺したのだと言います。本当にそうでしょうか。
私は違うと思います。あなたの親がコロナで死んだものとして、そのまわりにあなたを含めて25人がいたとします。【感染したと思われる日に25人と接触した】という意味です。感染者の割合が20パーセントとすると5人にひとり、
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図にするとこう。25人の中に5人。この5つの黒丸のうちのどれかがあなたの親を殺した者ということになります。
検査するとそれがわかりますが検査しなければ、
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この通り、全員がシロで誰がキャリアかわかりません。そして検査したところでキャリアが5人いたのがわかるだけで、そのうちの誰があなたの親に伝染(ウツ)したのかがわかるわけではありません。あなたはその5人に対して、「お前達5人の中に人殺しがいる」と言いたいですか。
言いたきゃそれでもいいですが、問題はあなたも黒丸のひとりである場合ですね。人はあなたを自分の親を殺したやつのように見るでしょうが、実際は、他に4人いるのだから4人のうちの誰かひとりである確率の方が4倍も高いわけです。わけですが、だからと言って「田中と中野と野村と村田もキャリアだった」なんて言ったら、かえって「罪を逃れようとしている」という眼で人に見られるでしょう。
これは間違っています。
ですが、もっと間違ってるのがこの5×5(ファイブ・バイ・ファイブ)のうち、真ん中の上から3番目の列の5人だけ抜き出して検査するような場合です。それをやると、
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こうなって、ただ一個の黒丸が「こいつだ!」ということになる。あなたが妻と3人の子を連れ、親と会っていたからあなた達だけを検査する場合がこれにあたりますが、結果あなたの奥さんが犯人にされるとかいうことになる。
奥さん以外に犯人はいないのだから奥さんだ、ということになるけど間違ってますよね。本当は、検査してないだけでキャリアは他に4人いるはずであり、そのうちの誰かひとりが伝染(ウツ)した確率の方が高い。なのに一部だけ検査するから、【コイツだと見て間違いないやつ】がひとり生まれてしまう。
おわかりでしょうか。これはスケープゴートです。
そのひとりは、他の者らのスケープゴート。あるいは、残り20の中から犯人を出さないためのスケープゴート。5人だけを抜き出して検査し、中にひとりキャリアがいてくれたなら、他の者らを検査しなくていいことになる。アナタが親と会ったためにアナタの親は死んだのだ、ということになれば結局あなたが悪者となり、あなたがスケープゴートです。
ですが、それでどうなるでしょう。世は救われたでしょうか。25人の人間関係はメチャメチャで、ファイブ・バイ・ファイブの小さな社会は回復不能の痛手を受ける。スケープゴートを出すのは問題の解決にならない。悪化を招くだけだというのがおわかりになるでしょうか。
今の状況がそれです。スケープゴートの大量生産。こともあろうに首相や東京都知事がそれをやるために、国が乱れてしまっている。こう書いたなら反論がこう来るかもしれませんね。「感染がこれだけ拡大してるのだから仕方ない。必要な措置なのだ」と。本当にそうでしょうか。
テレビは「コロナの感染が拡大している」と言う。でもどの程度、拡大してると言うのでしょうか。
私にはわかりません。テレビが割合を言わないから。さっきの図はキャリアが存在する率を20パーで作りましたが、実際には何パーセントなんですか。
80パーなら、
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図はこのように作り直さねばなりませんが、変ですね。あなたが親に会おうと会うまいと、あなたの親はキャリアに巻かれていることになる。マスクその他はどうやらほとんど感染を防ぐ役には立っていないようですから、あなたの親にはほぼ確実な死が待っていることになる。感染の度が80パーで、コロナの致死率も高齢者では80パーであると言うならそうなります。
でも、そうなっていませんね。テレビは「今日は新たに○人の感染を確認」「今日は新たに○人の感染を確認」と言う。言うけど、ただその数が増えるばかりで老人がバタバタ死んでるという報道はない。別に息子が親に会いに行かなくても死ぬ理屈なのにそうなってない。