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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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おその惣助物語(完結)

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それから、おそのが死んだら自分はどうして生きていくのかが分からない事、今までもずっと、毎日おそのに会いたくて堪らなかった気持ちを、遊んで暮らすことでどうにかごまかしていた事…。

「だから…おめーさまの顔だけ見てぇ…死んちまうつもりで…」

「そっか…」

惣助はだんだんと項垂れていった。そしておそのを背中から降ろすと、自分へと向かい合わせて、おそのの顔を見る。

「じゃ、おらも一緒に、そうするだ」

「えっ…」

惣助の顔に、恐怖は無かった。むしろ、嬉しそうに笑っていた。惣助は昔のように、はにかむ時の癖で丸い鼻をこする。

「そんで、めおどになんべ」

「…惣助さん!」

それまで抜け殻のように穏やかだったおそのの顔に、生気が戻った。それは切なくくしゃりと歪み、おそのはもう一度泣いて、次から次へと溢れてくる涙を拭った。

惣助は、降り続く雪からおそのを守るように、そっと抱きしめる。

「泣ぐでねえ、泣ぐでねえよおそのさん。…ああ、おそのさん…おそのさん…」

噛み締めるようにおそのの名前を呼び、その体を抱き、惣助も泣いた。それは、二人で一緒になれる喜びと、この世で結ばれぬことへの悲しみが、深く混じり合っていた。

「おそのさん…」




「あの世で、おめーさまとめおどになれるんだべか」

惣助とおそのは、川縁に立っていた。二人の手首は縄で括られ、双方きつく結わえてあった。

惣助はおそのの言葉に、昔を懐かしむように微笑む。

「…おら、おそのさんと一緒におらんちに居たあの夜、初めて、自分はほんとに生きでるような気がしただ」

おそのは顔を上げて惣助を見つめた。

「そんで、今一緒に死ぬだ」

惣助の目は、速い川の流れを見据えている。

「一緒に生きて、一緒に死ぬ。おらたちは、めおどになるんに充分でねえか」


おそのは笑顔で自分を見つめてくれる惣助に安心して微笑んだ。

二人はそれから手を取り合って、何もかもをごうごうと飲み込み岩をも砕くような急流へと、身を投げた。


暗く寒い、冬の夜だった。






おわり