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北へふたり旅 71話~75話

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北へふたり旅(71) 函館夜景⑥
 
 路地へ入ったところで、提灯を見つけた。

 「やきとり」と書いてある。
カウンターに数人。その奥に空いているテーブル席が見える。
10人も入れば店は満席だ。

 「レトロだね・・・どうする。此処でいい?」

 「地元の人、御用達という雰囲気です。
 いいわ。面白そう」

 カラリとガラス戸を開ける。
「らっしゃい」。すかさず大将の声が飛んできた。
「テーブルいいですか?」。奥を指さす。
「指定席はありません。全席自由席です」。女将が笑顔をむける。

 (打てば響くような対応で、じつに気持ちいいね)

 (あなたは無愛想でしたからねぇ。大違いです)うふふと妻が笑う。

 「え・・・そんなに無愛想だったか?。俺」

 「男は背中で仕事する、を地でいっていました。
 背中を向けて調理している姿を、素敵と言ったお客もたくさんいました。
 あなたくらいです。背中で人気を稼いだのは。うふっ」

 女将がメモを片手にやってきた。

 「なににしましょう?。
 内地からですね。お2人さまは」

 「えっ、どこでわかりました。内地からだって」

 「奥様に栃木のなまりがあります。
 栃木から来た建設員のかたが、ついこの間まで呑みに来ていましたから」

 駅に降りた時の光景を思い出した。
函館の街はいま、ホテルの建設が真っ盛り。
どの方向も工事用のシートに覆われたビルがある。
工事現場から絶え間なく、ドリルの音がひびいていたし、
資材を積んだトラックが頻繁に出入りしていた。

 「尻上がりのイントネーション。それが栃木の人の特徴です。
 旦那さんは違いますね。言葉の尻があがりませんから」

 「おなじ北関東ですが、ぼくは群馬です」

 「ぐんま・・・はて、ぐんまって何処でしたっけ?」

 女将が首をかしげる。
群馬県がどこに有るのか知らないらしい。無理もない。
群馬・栃木・茨木、北関東の3県の知名度は低い。
日光の東照宮や、草津温泉はよく知られているが、それが栃木や群馬に
有ることを知っている人はすくない。


 「とりあえず焼き鳥をください」

 「豚にしますか。鳥にしますか?」

 えっ。やき鳥だから、串に刺さっているのは鶏肉のはずだ。
しかし。道南ではやき鳥といえば、四角にカットされた豚肉の串焼きを指す。

 「せっかくです。豚のやきとりにしてください。
 お酒は地元の物をお願いします」

 「はい」と女将がカウンターの向こうへ消えていく。

 「このあたり一帯のやきとりは、鶏ではなく豚肉なの?」

 妻が小声で聞いてくる。

 「そうらしい。
 あ・・・思いだした。
 札幌には有名なハセストのやきとり弁当がある」

 「はせすとのお弁当? 何それ?」

 「ハセストに注文するけど食べる人いるー?」
お昼時になるとこんな会話が職場で飛び交う。
「ハセスト」は道南に展開するコンビニチェーンの「ハセガワストア」のこと。
このストアの名物が、ソウルフードのやきとり弁当。

 やきとり弁当というものの、ご飯の上にずっしり豚肉がならんでいる。
甘からいタレに食欲がとまらないという。

 (たしか関東にも有ったな。
 やきとりが豚肉というご当地名物が・・・
 何処だっけ・・・。埼玉県のどこかだったような気がするが・・・)
 
 (72)へつづく