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ウチのコ、誘拐されました。

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第六章:事件、前進再開


「先輩、ただいま戻りました――あ。」
武東が全速力で派出所へ戻ってきた時、渡良部は誰かと電話している最中だった。武東に気付かない様子で、真剣な表情で時折手元の紙に鉛筆を走らせている。
しかし表情の割りに受け答えの口調は硬くない。
だとすると、相手は例の監察官だろうか。
そう思いながら武東は静かに自分のデスクへ戻る。と、渡良部が通話を続けたままひょいと顔を上げ、軽く指先をひらめかせた。
見ていないようで、きちんと見ている。
武東はちょい、と頭を下げ返して、自分の席につき、自分の手帳を取り出した。
書いてあるのは、誘拐の時間、現場、方法。そして不審者の車の色、形、特徴。そんなところだ。
電話で何やら見つかったといっていた渡良部の方は、何を掴んだのだろうか。
と。
「武東。」
「はい?」
いきなり渡良部に名前を呼ばれ、武東は顔を上げた。その目の前に受話器が差し出される。
「?」
「ハイ。」
「はい?」
「お前に。」
「えええ?」
鑑識官が、武東に何だというのだ。
訳がわからないまま、武東は半ば無理やり受話器を受け取らされた。
「はい、もしもし。」
「あの……武東さん、でしょうか……?」
電話のその声は、京花だった。
「か、春日部さんっ?!」
完全に予想外の声に、武東の心臓が大きく跳びあがる。
「何かありましたか?」
反射でそう尋ねてから、何かあったから電話が来たのだと思い至る。
電話の向こうでも、武東の心のうちを察したのか、小さく微笑む気配がする。
「ええ、実は……先程、犯人の方から電話がありましたの。身代金の金額だけを言って切れてしまったのですけれど。」
「他には何か?」
「ええ、何も。ただ後ろで黒丸の声が聞こえていましたから、あの子は無事なようですが。」
「そうですか、それはよかった……」
京花の言葉に、武東は取り敢えずほっと胸を撫で下ろした。
まだ猫は無事のようだ。
「こちらの方でも、色々わかった事があるんですよ。不安でしょうが、気を強く持ってくださいね。頑張りますから。」
「ええ大丈夫です。私は最後まで戦います。」
武東の言葉に、京花はきっぱりとそう応えた。だが、すぐにその声が悲しみを帯びる。
「でも、あのこの……黒丸のことを考えると、可哀想で……どんな恐ろしい目に遭っているのか、考えるだけでも辛くて……。ですから、どうか、どうか早く助けてあげてください……お願いします……!」
かすかに震えるその声を聞いて、武東は心臓がズキリと痛むのを感じた。
早く、出来る限り早く。
助けなければ。安心してもらわなければ。
そう武東は改めて決意する。
「春日部さん!絶対、絶対に黒丸君を無事に取り戻しますよ!犯人だってもう目星は付いているんです!犯人は絶た」
絶対に月下会、と言おうとしたら、武東の手から受話器が消えていた。
「あー、もしもし。渡良部ですけど。」
横を見ると、いつの間にか渡良部の手に受話器が移っていた。
「まあ、武東の言ってる通り、犯人は大体絞れてるんで。はい。……ハイ、はいじゃあそういうことで。では。」
あっさりと電話を切ってから、呆れたように渡良部は武東を振り向いた。