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ウチのコ、誘拐されました。

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第八章:最悪


自転車で、全速力。武東は渡良部に教えられたとおりの場所に辿り着いた。
何の変哲もない、古いアパート。今時二階建てだ。古いというか古臭い。
山井さんから得た情報によれば、祝 盛次の部屋は一階。山井家の隣。左から数えて二番目だ。
「待ってろよ、祝……。待っててください、春日部さん……。あ、黒丸くんも。」
呟きながら、ひっそりと裏庭の方へまわる。目標は、庭に面したベランダだ。
と、
「っ……っっ!」
いきなりポケットで携帯が震えた。上げそうになった声を飲み込み、慌ててディスプレイを覗く。
「もしもし、武東です。今もう、祝のアパートですよ。」
電話の相手は、半分予想していた渡良部だった。
「悪いな。鑑識の清水のオッサンからの連絡だ。念のために言っとく。……例の指紋と、祝の指紋が一致したと。」
「本当ですか。」
「おお。だからな。」
そこで渡良部は間をおいた。瞬間、携帯越しに空気が引き締まった
自然と武東の背中が伸びる。
「遠慮せず、全力でしょっぴいて来い。」
「わかりました。……では。」
そう言って通話を切り、武東は携帯をポケットに仕舞った。顔を上げ、気持ちを新たに引き締める。
静かに、慎重に。祝の部屋の窓へと歩み寄る。
そして、警戒しながら祝の部屋を覗き、
「!!!?」
武東は我が目を疑った。
荒れた室内。
飛び散るカツブシにニボシ。
半開きのケージ。
そして――
畳の床に、血が垂れていた。その傍には、赤く汚れた飛び出しナイフ。
黒丸の姿は、――ない。祝の姿もだ。
「……これは、」
容易に想像できる最悪の結末を読み取って、武東の背筋が凍った。
殺人。いや、殺猫。誘拐殺猫事件。


□■□


「先輩、先輩大変ですっ!祝がいません、それから、血が」
「なんだと?」
祝を探して走り出しながら、武東は渡良部に急いで電話をかけた。
「猫もいません。もしかしたら、」
「わかった。言わなくていい。とにかく祝を捜せ。捕まえろ。それからだ。」
幸いにも少ない言葉で渡良部は武東の言わんとするところを理解してくれた。
武東は察してくれた渡良部に感謝する。
誰だって、こんな結末、言いたくない。認めたくない。
「ありがとうございます、じゃ、」
「おう。」
電話を切り、前を向く。
――と。
視界の隅に、コソコソと道を行く男が映った。
まさかと思いつつその男を目で追って、武東は心の中でアッと叫ぶ。
写真の男。祝 盛次だ。
「ちょ、おまえ、」
「ッ!オマワリ!!」
武東が動くよりも、祝が叫ぶ方が一瞬早かった。
何故バレた?と思い、そういえば自分は制服姿なのだという事を思い出すのに一瞬かかる。
その間に祝はもう背中を見せて走り出していた。
「あ、待てっ!」
言って待つ訳が無いことは十分に承知しているのに、やはり言ってしまうのは何故だろう。走り出しながら武東は考える。
それにしても、祝の足は意外にも速かった。だが、武東だって負けてはいない。
本当に新人の時代には、とにかく万引きを追いかけ、食い逃げを追いかけ、家で少年を追い、走り回りまくり、捕まえまくり、とにかくそういう時代だったのだ。
走ることで負けるつもりは、毛頭ない。
それに、京花の怒りや哀しみ。
京花を悲しませたという、ただそのことが。祝への武東の怒りが、足に力を加える。
あの悲しげな顔が、微笑んでくれるのを見るために、そのために頑張ったというのに。
――全部全部、台無しじゃないか!
「祝ィ!!」
武東は思い切り叫んで地を蹴った。
伸ばした右手が、祝の左手に、届く。
「ギャ!!」
その左手を思い切り掴むと、一瞬祝がひるんだ。その隙を逃さず、武東は一気に身体を詰める。
引き寄せて、掴んで、背負い投げ。ドサリと祝の身体が、アスファルトに落ちた。
やっと、ようやく、捕まえた。
「祝、盛次、だな!」
そう確認すると、武東の下で、祝はがくりと頷いた。
それを見て、武東は携帯電話を取り出す。
「もしもし、先輩ですか……」

こんな、こんな結末を待っていたわけではなかった。