ヒゲのオーラ(おしゃべりさんのひとり言 32)
ヒゲのオーラ
野生動物って、オスの方がカラフルだったり、タテガミのような装飾が大きかったりするよね。
でも人間は、女性の方がカラフルに化粧したり、宝飾品を好むよね。
これはどういうことなのかな?
自然の摂理に反してない?
僕はヒゲが濃い。
一日剃らないとジョリジョリになる。
鼻の下は結構濃い。(鼻毛じゃないよ)
頬には生えず、もみ上げから顎に連なっている。
バカみたいな思い出だけど、思春期の頃は濃いのが嫌で、痛いのを我慢して抜いていた。
毛抜きで一本いっぽん、まめな作業。誰にも見られたくないわな。
大学の時、ある賭けに負けて、ヒゲを1ヶ月間剃らない罰ゲームをやらされた。
1ヶ月も経つと、口の周りが結構伸びる。
せいぜい1センチもないけど、ただの無精ヒゲ、かなり疎らだった。
「何そのヒゲ、剃ってよ」
「そうはいかないんだ」
「汚らしいし変、似合ってないわよ」
「好きで伸ばしてるんじゃないんだよ」
彼女は嫌がったけど、それをイケテルと言ってくれる女子もいた。
当時は、ヒゲを伸ばすこと自体、オシャレじゃなかった時代。
顎にパンツ履かせたいくらい恥ずかしい毎日だったな。
1ヶ月が過ぎてようやく剃ることが出来た日、僕は鏡に映る久しぶりの顔が可愛いとさえ思った。
どっちが良かったのかな?
彼女はもうやめてって言う。
他の女子はまた伸ばしてって言う。
結局、それからしばらくヒゲを生やすことはなかったけど。
それは銀行員になって、ヒゲなんか伸ばせる環境じゃなくなったから。
その頃、イラストレーターを本気で目指していて、ある人にその指導を受けてたんだけど、その人は大手アパレルメーカーのデザイナーさん。
「お前さん、ヒゲ伸ばさんのか~い?」
「銀行員なんで無理ですよ」
「俺も会社員だけど、気にしとら~んぞ」
その人は、顔全体のヒゲを伸ばされていた。
もちろんこまめに手入れされて揃ってたけど、まるで木こりさんのようなお顔。
でも、それがシブかった。
僕も真似したかったけど、支店長に怒られるから出来なかったんだ。
その後いろんな仕事をしてきたけど、ヒゲを伸ばせるタイミングが少しはあった。
1週間だけとか、海外出張中だけとか。
でもその頃はまだ、きれいに生え揃わないんだよな。
ヒゲをオシャレの一つとして、若い世代にも受け入れられて来てたけど、キレイに生える人少ないよね。
20代後半の時、ロン毛にした。
肩より長くした髪を、普段はヘアゴムで後頭部に1本にまとめてた。
このヘアスタイルでいると、よくいろんな人から声を掛けられるようになった。
初めて入るBARで、知らない客が「久しぶり!」って声をかけてくる。
何かオーラが変わったようだ。ちょっとした人気者気分。
明らかに変わった周囲の反応に戸惑いながらも、僕はスター気取りで振舞った。
すると仕事が、うまく行くこと行くこと、スムーズに進むこと進むこと・・・
そこにヒゲまで伸ばしてみることにした。
そうしたら威厳が増すのか、みんな僕のことを偉い人扱い。
さっきヒゲを剃った時の顔が可愛いって言ったけど、その反対に別の人格が現れたようだ。
昔からの知り合いはそうでもないけど、仕事関係のちょっと年下なんかは、みんな言いなりになる感じだった。
おかげでかなり年上の方たちと、対等に渡り合えるようになって、30代40代の友達が増えた。
その結果、いろんな面でリードしてくれる人たちと付き合うことが出来て、僕はラッキーな人生だと思う。
すべてはヒゲのおかげって言えるかもしれない。
男は着飾るもんじゃないとか、内面を磨くべきとか言う。
でもマッチョになるとか、髪型キメるとか、肉体的な部分を強調するとモテるんだから、ヒゲやロン毛も野生動物のオスと同じってことかな。
最近では、ロン毛はしないし、ヒゲもちゃんと剃っている。
でも、ここぞって時は、ヒゲを3~4日も伸ばせば、顎のラインには生え揃うようになってきた。
白髪が混じるようになったけど、トリマーで長さをそろえて、オシャレに手入れはしてる。
たったそれだけで、自信を持って行動できるんだ。
つづく
作品名:ヒゲのオーラ(おしゃべりさんのひとり言 32) 作家名:亨利(ヘンリー)