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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕の弟、ハルキを探して<第二部>(完結)

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Episode.15 アイモ







「わあ…!ハンバーグだ…!」

「なかなか美味いもんだぜ」

僕たちは兵舎へと戻り、朝食を食べた。みんな美味しそうに食べていたし、その時はアイモという白髪の少年も、ハンバーグに喜んでいた。「おいしい!」と言って笑うアイモの顔が、さっき戦場で見た時とは全然違うことに、僕は戸惑っていた。

僕は一人で食事をしなくちゃいけなかったけど、ロジャーさんが「話し相手も居た方が食事は楽しいさ」と言って、前の席に座ってくれた。周りの席から僕とロジャーさんはじろじろ見られたけど、僕はアイモのことが気にかかっていたので、ロジャーさんにこっそり聞くには良かった。でもここは食堂だから、少し人目が多すぎる。

アイモは、隣に座ったヴィヴィアンさんにほっぺたに付いたソースを拭いてもらったり、吹雪さんから付け合せのコーンを分けてもらったりして、嬉しそうにしている。本当にただの子供だ。なのに、彼がさっき戦場で見せた、獲物を仕留める時の楽しみを知っている顔、そして、疲れを癒やした後すぐに「闘える」と言った時の、憎しみのこもった目。きっと何か理由があるに違いない。

「気になるか」

僕がハンバーグの付け合せの豆らしきものをいじくりながらアイモを盗み見ていると、目の前に居たロジャーさんはそう聞いてきた。

「アイモは…」

ロジャーさんは一瞬、少し切なそうに顔を歪めた。でもすぐに笑顔に戻って、「飯のあと、俺たちの部屋で話そう」とだけ言って、ハンバーグをせっせと口に詰め込んでいた。



食事が終わって兵たちが食堂を出ていく時、みんな朝の身支度も済んでいなかったから、各自の自室に一度帰っていったし、僕たちもそうしたけど、アイモだけは違った。アイモはヴィヴィアンさんに見送られて廊下の先にある、第一班の待機室へ真っ直ぐ向かっていった。僕とロジャーさんは自室に戻り、ロジャーさんが後ろ手に扉を閉める。

ロジャーさんは二段ベッドの下の段、僕のベッドに座って、胡座になった。僕は隣に腰掛け、床に足を垂らす。言いにくそうで、話すのが辛そうだったけど、ロジャーさんはそのうちまた、シャーロットさんのことを話した時のように、ぽつりぽつりと喋り始めた。


「アイモは…両親をモンスターに殺された」

それを聴き、僕は思わずロジャーさんを見た。ロジャーさんはこちらを見ない。

「…あれはもう、二年も前のことだ。外敵への監視体制も何もなかった頃で、まだ五歳だったアイモは両親と眠っていて、突然街に現れたモンスターに家が次々なぎ払われていく中、自分の家までモンスターが来た時、三人で慌てて目を覚ました」

そこでロジャーさんはポケットを探って、煙草のような箱とオイルライターを取り出したけど、少し見ていただけでベッドに置いた。

「アイモの両親は、アイモを外に逃がすためにその場に留まり、まだなんの力もなかったアイモは逃げるしかなかった…」

ロジャーさんの話が途切れるたびに、僕はアイモの顔、その表情を思い出した。僕を見てはにかんだ顔、嬉しそうにハンバーグを食べる顔、兵長の怒鳴り声にびっくりして怯えていた顔…。僕はそのアイモの顔が恐怖に怯え、悲しそうにくしゃりと歪むのを想像していた。

「そしてギフトを授かった日、アイモは世話になっていた家を飛び出し、軍まで来たんだ。俺がちょうど門番と押し問答していたアイモを見つけて、わけを聞く前にまずなだめようとした時だ。アイモはこう言った…」

僕は、なんとなく分かっていた。でもそれがどんなに辛いことだろうか。六歳や七歳の少年がそんな道を選ぶことの、どこに救いを見つけたらいいんだろうか。

「“奴らに復讐してやるんだ”。…あいつはそう言って俺を睨みつけた。俺が説得しても、兵長が怒鳴りつけても無駄だった…それに、あいつの力を見ただろ。充分役に立つ。俺は反対したが、兵長はあいつを「兵士」として採用した…」

僕は、「それは反対するのが当然だ」と思った。小さな少年に、復讐のために殺戮を繰り返させるなんて、どう考えてもおかしい。力なんてあってもなくても、あの子はまだ子供だし、人間なのだから。そう思って考え込んでいた時、隣のロジャーさんがベッドに置いた煙草をまた取り上げ、今度は火を点けた。憂鬱そうな灰色の煙は、風もない小さな部屋をたゆたう。

「あいつのベッド、待機室にあるだろ」

「あ、はい…」

そういえばそれも僕は気になっていた。どうしてアイモだけあそこにベッドを置いているのか。ましてや子供なんだから、さみしいんじゃないかと、今なら思う。

ロジャーさんはしばらくためらっていたけど、何口か煙草の煙を吸って、こう言った。

「“誰かと眠るのが怖い”…。あいつはそう言うんだ。一緒に寝てやろうとしても、泣いてわめいて部屋からおん出される。一緒に眠っていて、モンスターに両親が襲われたことが、今でも思い出されるんだろう。…“自分を守るために、そばに居る誰かが死ぬなんてもういやだ”…あいつはそう言って泣くのさ。仕方がないから俺たちはおやすみを言いに行くだけしか出来ない…あいつは今でも、苦しんでるんだ」

そう言ってロジャーさんは虚空を睨みつけた。それはアイモの両親を殺したモンスターを思い描いていたのか、もしくはこうなる運命の歯車を組んでいた何者かを憎んでいたのか、僕には分からなかった。