僕の弟、ハルキを探して<第一部>
彼女の後ろから、ぬらぬらしていて木の幹ほども太い、長い触手が音もなく襲いかかろうとしていて、それはあと何メートルかで僕ら全員を飲み込みそうな数と長さだった。僕は吹雪さんの手を取ろうと駆け出して、僕の声に驚いて振り向いたロジャーさんたちも闘おうと身を翻す。
「おいでなすったな!」
「吹雪姉ちゃん!」
「きゃあっ!」
叫び声がこだまする。なんと、吹雪さんは真っ黒い触手に捕まえられて、その触手の根本にあった、モンスターの口へと引きずり込まれていったのだ。
「吹雪!」
ヴィヴィアンさんが叫んで手を払うと、飲み込まれかけていた吹雪さんを絡め取っていた触手が破裂し、弾け飛んだ。「爆発か」。そう思って僕は少しほっとしたけど、モンスターはそれで怒り狂ったのか、僕たちに向かって猛烈な勢いで飛びかかってきた。
「…ストップ」
アイモがそうつぶやいて両手を掲げると、飛びかかろうと地面から跳ねた瞬間のまま、モンスターは動かなくなる。
「よしきた!」
「任せろ!」
血の気の多い男たちがそこで触手を切り落とし、本体を黒焦げになるまで焼き尽くした。それで終わった。本当に、十秒くらいのことだったんじゃないかと思う。僕はただ見ていることしか出来なかった。あまりに素早く、モンスターは見る影もない体をどさりと地に落とされて転がった。
「終わったね。帰ろう」
アイモはそう言って、どこかさみしそうな顔をしていた。
Continue.
作品名:僕の弟、ハルキを探して<第一部> 作家名:桐生甘太郎