パンツ泥棒
自分は現在高校二年で、数か月前にオナニーを覚えてからというもの、毎晩発情した猿のようにオナニーにふけっている。
自分の間借りしている下宿の隣のアパートの二階のベランダに、何時も干してある色取り取りのパンツを物欲しげに眺めながら、あのパンツを手にし、パンツを見ながら(あるいは匂いながら、又は被りながら、もしくは身に着けながら)高揚したオナニーをしたいと思っている。
自分は若い女のパンツ(下着ならば何でも興奮するかといえばそういう訳でもなくブラジャーなどにはまるで関心がない。本当のところはたった今まで見目麗しい若い女性が身に着けていたもので恥ずかし気に付着した汚れが微かに見えるか見えないか程度《ここのところは非常に大事なところであり、汚れは微かでなければ意味をなさず間違いにも糞が付いたようなものは上品さを欠き百年の恋も一気に冷めるのである》で、且つ匂い立つようなパンツがベストではあるが、さすがにそのパンツを盗むのは至極困難である)が干してあるのを目撃するだけでも十分に興奮する性質で、その夜はそのパンツの残像を思い出しながら二回は連続して抜くことが出来る。
自分は今夜こそ屋根伝いに女の部屋のベランダに渡ろうと決心し、深夜になるのをドキドキワクワクしながら待った。
女は雑な性格らしく、深夜になっても、洗濯ものを取り込もうとしない。
それを見越しての犯行だった。
自分は音をたてないように、瓦の上をソロリソロリと進んだ。
女の部屋のベランダに来た。
部屋の電気は消えている。
ドキドキしながら干してあるパンツの内、ピンクのパンツ一枚だけを震える手で抜き取り、ポケットにしまい込んだ。
いきなり何枚も盗るとバレルと思い、一枚だけにしたのである。
自分はその日興奮冷めやらず連続して三回(一回目は鑑賞しながら、二回目は匂いながら、三回目は被りながら)抜いた。
数日後又、女の部屋のベランダに渡り、次に黒いパンツを盗んだ。
黒いパンツに興奮した自分はその日も又三回連続して抜いた。
慣れてきた自分は、徐々に大胆になり、一度に数枚盗むようになった。
ある晩、自分が何時ものように女の部屋のベランダに忍び込むと、窓ガラスが開き、女が顔を出した。
「何しているの?」
女が怯えた声で言う。
自分は瞬間やばいと思ったが、
「ちょっと、ここのベランダにぼくのお金が落ちていないかと思って?」
と言い訳をした。
「何でこんなところに、アンタのお金が落ちているのよ?」
女が不審そうに聞く。
「ぼくは隣に下宿している者で、この間から、お金が無くなるんで、おかしいと思って……」
自分の支離滅裂な言い訳に、女が、
「ちょっと、中に入りなさいよ」
と言った。
女は部屋の電気をつけた。
四十代後半に見える女は、今までに見たことのないような超がつくドブスだった。
目は異常に細く線のようにしか見えないし、鼻は顔の三分の一ほどの大きさで豚のように鼻の穴が丸見えで、口はフランクフルトを二つ重ねた様に分厚いし、おまけに髪は白髪まじりのごわごわでタワシの様だ。
人間の顔をした妖怪にしか見えない。
自分はこの妖怪女のパンツでオナニーしていたかと思うと、反吐が出そうになった。
「近頃、下着が無くなると思っていたけど、アンタが盗んでいるんでしょう?」
小汚い中年女が言う。
「しし失礼ですけど、ぼくにそんな趣味はないしし、かかりに盗むとしても、相手を選びますよねですよね」
自分は狼狽えながらも冷静を装いそう言ったが、語尾が震えている。
「どういうことよ、それ? 人の家のベランダに勝手に入って来て、その言い草は無いでしょうが。不法侵入で訴えるわよ」
ブス女が切れた。
「そ、それは、たた確かに、ぼ、ぼくが悪かったたた確かにおっしゃられる通りでですね、そそそのことは神や仏に代わって謝り謝りもします。ふふ深く深く反省し頭もたれていますます。しかしかしですね、下着泥棒の濡れ衣をきき着せられては、ぼくもう今後どうやって生きて行けばいいと思いますかね、ほんとうに、ね、そうでしょう? ぼくには考えが及ぶのかどうかも解りませんが、つまりはね生きていけませんからね、本当に死ぬしかありませんからね、そこのところはどうかわかってわかってやっていただけますでしょうかね」
自分は半泣きの顔をしながらおまけに鼻水も垂れ流しながら動揺して何を言ってるのかがさっぱり解らない。
「分かったわ、今日のところは許してあげるけど、今度ベランダに入ってきたら、警察呼ぶからね」
妖怪女はそう言うと、窓ガラスを開けて、
「とっとと出て行きやがれこのクソッタレー」
と叫んだ。