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八九三の女

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[楽園]



「部田、またねー」

帰り支度をしている少女に声を掛け
月見里君は教室の後ろで待つ、両親の元へと向かう

小柄な母親と並外れた長身の父親に笑い掛ける
傍らにいる小鳥遊君の両親にも挨拶を交わす

本音を言えば久し振りに会う叔母と思う存分、絡みたかったが
今朝の事、小鳥遊君の事を思えば我慢の精神だ

あの後、無神経にも自分の展開を述べてしまった事も反省だ

年年、性体験をする年齢が低年齢化している昨今
加えて部田は中身は晩熟そうだが外見は可也の早熟だ
「高校生」と、言われても疑われない

自分の予想は「ヤッてる」の一択だ
どこからどう見ても、あの男はむっつり助平だ
異性に無関心な振りをして、本心は落とせない異性などいない
と、自信満満に思っている奴だ

そんな奴が部田に手を出さない訳がないんだ
否、手を出さないでいられる訳がないんだ

そこまで言って小鳥遊君に四股たま、怒られた
そんな訳で反省の意味も込めて今日は我慢だ我慢

「本当ですかあ?」
「あたしも、そのブランド好きなんですう!」

舌足らずな、嗄声(ハスキーボイス)
聞き覚えのある、その声に月見里君は顔を向ける

「姉ちゃん?!」

月見里君の姉は
彼が今朝、見送った黒緑のビジネススーツ姿のままで
漆黒のフォーマルスーツ姿の叔母と肩を並べて楽しげにお喋りしている

「SSとかSサイズがいっぱいあるし~」
「可愛いですよね~」

「そう!そうですよねえ!」

状況が呑み込めない月見里君は母親を振り返る
息子に説明を求められた母親は頷く

「会社抜けて来たみたいよ」
「私達もさっき声を掛けられて驚いたの」

母親の言葉に同意するように隣にいる父親も頷いた
再び、月見里君は顔を向け燥ぎ合う叔母と姉の姿に食い入る

なんだ、このパラダイスは?!

ナイトウェア姿とは違う意外性萌えの、ど真ん中の女性が二人
キャッキャウフフ状態なんて、パラダイス以外の何物でもないだろ?!
でもって、パラダイスにお呼ばれしない手はないだろ?!

小鳥遊君への気遣いも反省も何処へやらスキップしながら駆け寄る

「姉ちゃん姉ちゃん!」
「叔母さん叔母さん、俺の姉ちゃんです!」

改めて、月見里君を介して紹介された叔母と姉は
同時に頭を下げ、頭と頭をぶつける
同時に声を上げ、同時に謝る二人の姿に月見里君は悶絶寸前だ

幼馴染の様子を横目で流す小鳥遊君は
月見里君の両親と共に教室を出て行く両親の後を追う

とてもじゃないが、部田に話し掛ける気になれない

こんなの良くない
良くないのは分かっているけど部田と言葉を交わしたら
このままで良いかも、と思ってしまう自分がいる

会えただけで充分
過ごしただけで充分、そう思うのが辛い

月見里君の前では偉そうな事を言ったが
冷静になればなる程、「あの人」相手に勝算があるとは思えない
だったら友達のままで良いかも、と思い始めている

そんな自分が今、部田と話したら「かも」が確定しそうで嫌だ

小鳥遊君の胸の内など知らない少女が教室の扉を潜る
その背中に声を掛ける

「小鳥遊君」

部田から話し掛けられるのは、これが初めてだ
だが、自分は振り返れない

「一年間、宜しく」

「宜しく」ってなんだあ?!
「宜しく」ってそれは友達としてえ?!
それとも別の、なにかの、可能性があるんですかあ?!

違う、部田頼みでは駄目だ
可能性は自分自身の中にあるんだ

大きく息を吸い、大きく息を吐く
小鳥遊君はゆっくりと落ち着き少女に振り返るも
返事など期待していない少女は通学鞄を手に自席を離れる所だった

小鳥遊君は慌てて声を張り上げる

「こちらこそ!」

小鳥遊君の返事に少女が振り向き小さく頷く
少しだけ、微笑んだように見えた

「やっぱ俺、このままで良いかも」
と、思う自分自身を小鳥遊君は激しく頭を振り、追い出した

作品名:八九三の女 作家名:七星瓢虫