八九三の女
[番外編 18禁]
細い首筋から幼い鎖骨へと熱い唇が愛撫する
そうして他人の目に触れない場所にキスマークを残すと
「お仕舞い」と、言わんばかりに少女の後頭部に顔を埋めた
少女の告白に応えた社長が酔い潰れた、あの日以来
二人の関係に然程、進展はないが望んでいない訳じゃない
子どもの自分に出来ない事があるなら
子どもの自分に出来る事はないのだろうか
月見里君に相談したかったのは、そういう事だ
相談というか、未だ「抜く」という表現が分からない
目の前の携帯電話で検索すれば全て解決するのだろうが
どうしても指は擬しい
どうしても口は思うより容易い
「終わり、ですか?」
そして相手に直接、伝わるのは言葉ではなく声だ
自分の声で聞いて
社長の声で答えてもらいたいのだ
「我慢、出来るんですか?」
社長はゆっくりと身体を起こす
自分を覗き込む視線に少女も顔を向ける
答え難い事を簡単に聞くのは女の特権か
叔母になにか吹き込まれたのか将又、他意はないのか
何れにせよ、社長は小さく唇を歪め頷く
「出来る」
そう言い切る社長の顔を見つめる
「出来る」と、言った社長が特別なのか
「出来ない」と、言った月見里君が特別なのか、自分には分からない
先輩ホステスの顔が思い浮かぶ
所詮、ガキには満足させられないのよ、とばかりに高笑う
悔しい
悔しいが社長にも腹が立つ
「出来る」と、言った社長はどれだけ不純なのだろう
「出来ない」と、言った月見里君はどれだけ純粋なのだろう
先輩ホステスは相手にするのに叔母には発情するのに
自分相手には我慢すると断言する社長の神経が分からない
分からないのは自分もそうだ
どうしたらいいのか、自分でも分からない
その苛苛を社長にぶつける自分にも腹が立つ
もう駄目だ
もう寝てしまおう
「分かりました、寝ます」
少女は社長から目線を外すと枕に顔を埋める
取り残された社長はなにを思ったのか、その耳元に囁く
「じゃあ、触って」
意味が分からず再び、顔を向ける少女の腕を掴む
促されるまま握らされたモノは硬く、脈打っている
思わず、その熱さに指を開く少女の手に重ねるように社長の手が覆う
「後は自分でやるから」
言うなり社長の手が少女の手事、上下し始める
続く行為がなんなのか、理解出来ない少女を余所に
社長がその首筋に唇を寄せる
社長の舌は相変わらず熱を帯び、少女の感覚を奪う
触れる度、咽喉が震えて骨も肉も溶けていく
何処までも遠のいて消えていく、感覚
かと思えば
「いかないで」
と、言わんばかりの社長の吐息に連れ戻される
項を抱き抱えられ唇と唇が重なる
キスマークは残すのに口付けを交わすのは、あの日以来だ
あの日からずっと待っていた気がする
あの日よりずっと受け入れている気がする
社長も察したのか、甘い舌を奥深くまで入れてくる
思わず空いた手で社長の胸を押すがびくともしない
所か、少女の反応に口付けも下腹部にある手の動きも激しくなる
時折、離れる唇から社長の声が漏れる
抱き締められる身体と身体から互いの熱が伝わってくる
途切れる息遣いが少女の顎を掠め
首筋を滑り、その胸元に顔を埋めた社長が絞る声で言う
「いく」
言葉の意味は分からないが少女の腕がその頭を抱え込む
胸元に吸い付く唇の熱さに
微かな痛みに少女が声を上げた瞬間、社長の身体が揺れる
握る手の中のモノが大きく脈を打ち
張り裂けたように熱い、とろみのある液体が溢れてきた
少女の腕に抱き抱えられたまま
社長がその身体を圧し折る勢いで抱き締める
少女の華奢な身体が吐息と共に、震えた
時間と光熱費の節約の為
深く考えもせず「一緒に」と、提案した後で酷く後悔した
提案した直後、社長はなにか言いたそうにしていたが
なら、あの時にはっきりと断ってくれれば良かったのにと思うのは
唯の責任転嫁だろうか
湯舟に浸かりながら、向かい合う二人
背中を向けるのも変なので、こんな感じになってしまったが
じっと、目の前で膝を抱える自分を社長が見ている
濡れた前髪の隙間から覗く、感情を読み取る事が不可能な眼差し
なにを考えているのか知りたいが
なにを考えているのか知りたくない気がする
だが、解答は本人の口から語られる
「すげー気持ち良…、っ!」
思わず社長の顔目掛け、少女は湯舟の湯をぶっ掛けた
無言で顔を拭う社長に
少女はどぎまぎした様子を見られたくなかったのか
そっぽを向き、背中を見せている
その背中に社長が聞く
「抱っこして、いい?」
当然、少女は答えない
当然、社長は少女の身体を引き寄せ、小柄な肩に唇を寄せる
「寝ないでくださいね」
「ん」
本当はこのまま寝てしまいたい