八九三の女
[少年の主張]
「部田ー、元気ー?」
登校した少女に颯爽と駆け寄る、月見里君と共に
小鳥遊君も挨拶し会話の輪に入る
親友の叔母への恋心のお陰で少女との距離が縮まった事は確かだ
感謝しても感謝し切れない
「叔母さん、元気ー?」
自席に通学鞄を置きながら、頷く少女に
月見里君は隣の席の机に腰掛けながら話し始める
「部田、クリスマスの予定あるー?」
距離が縮まった事は確かだが、あまりにも急な展開に
近くの椅子に腰掛けようとした小鳥遊君は座り損ねそうになった
「叔母さんとデートしたいんだー、俺」
少女の心配げな視線を受け「大丈夫」と、呟き小鳥遊君は座り直す
そうか、そうだよな
お前が俺を応援してくれてるのは心強いが
お前自身の恋の行方も大事だよな
今更だが、俺もお前を応援するわ
まあ、陽キャのお前なら応援なんかなくても問題ないだろうが
小首を傾げ無邪気な笑顔で返事を待つ、月見里君に
少女は躊躇するも正直に話す事にする
「叔母さん、彼氏いるんだ」
少女の言葉に目を丸くして驚いたのは小鳥遊君だった
そうか、そうだよな
その可能性がすっぽり抜けてた自分は相当、間抜けだな
応援するって言ったのに、すまん
ところが肝心の月見里君は気落ちする所か
何故か清清しい程の幼い瞳を輝かせて、食い付いてくる
「マジかー、ラブラブなの?」
「相手はー?」
「どんな奴?カッコいいのー?」
意外といえば意外
当然といえば当然
年上だろうが構わない
彼氏がいようが構わない
飄飄と見える月見里君には誰も知らない情熱があるようだ
「一応、ホスト」
一応、と誤魔化したのは知らないからだ
知っている情報は、売れっ子ホストだという事だけ
そして叔母は彼を繋ぎ止めるのに必死で、その結果の借金だ
もしかしたら叔母は、自分に相談したかったのかも知れない
もしかしたら叔母も、自分に相談して欲しかったのかも知れない
今ならメッセージを通して相談出来るのかな
今朝の事も相談出来るのかな
「マジか!」
月見里君は前のめりに少女の顔を覗き込む
ホストは女性の扱いに掛けては最強
手練手管の最強ホストが恋敵なら最高、と俄然、恋の炎を燃やす
挙句の果てには
自分もホストになり、叔母を振り向かせる宣言をする
拳を握り締め
雄叫びを上げる勢いで仰け反る月見里君の意外な一面を
間近で遠い目で眺める少女に、小鳥遊君が呟く
「あいつ、目出度いから」
揶揄しながらも
月見里君は思う存分、人生を謳歌している
小鳥遊君にとっては途方もなく、羨ましい事には変わりない
少女にしても
此処にきてウザい存在だと気付いた月見里君に
何処となく叔母に通ずるモノを感じ、微かな親近感を抱く
それでも叔母は一人で充分だ