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chair

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 優勝決定戦。

 相手は案の定、たかしくんです。いつも優勝をさらっていくかれに、どう立ち回ったら良いでしょうか。

 ゆうとくんは今まで以上に深く、この大きなかべを乗りこえる手段を考えます。しかしイスは、一つしかありません。先ほどのように、おしつける相手もいないのです。今まで取ってきたどの手段も、通用しそうにありません。
(こまったなぁ……)
ゆうとくんは、万事休すといった表情で下を向いてしまいます。しかし、このままむざむざと負けてしまっては、いつまでもりこちゃんと仲良くできません。ゆうとくんは、なんとか活路を見いだそうと目を皿のようにして、周囲を見回します。
(たかしくん……イス……、たかしくん……イス……、せんせい……ラジカセ……)
だめです。何も思いつきそうにありません。
(だめだ、こんなの無理だよ……)
ゆうとくんは絶望して、一つだけ残ったイスの背もたれに、ガクリと手をつきました。
(……!?)
ゆうとくんは、イスの背もたれを思わずにぎりしめます。
(そうか、その手があった)
このとき、ゆうとくんは、ある方法を考えついたのです。

 まず、背もたれがあるということは、前回と同様、座るのがおくれる場所があるということです。具体的には、背もたれがじゃまをしている、イスの背後に当たる位置がそうでしょう。そこにたかしくんがいるときに、音楽が停まってくれれば、いくらたかしくんといえどもイスにありつくのは難しいはずです。ならば、これも前回のように、なるべくイスの正面の座りやすい位置のときだけゆっくり動き、それ以外の場所では速く動けば、少しはこちらの有利になるのではないでしょうか。
万が一、たかし君が同じ作戦をとっても、せいぜい五分五分、かれの速さを加味しても四分六分程度にはなるはずです。
(うん、この作戦にかけよう)
ゆうとくんはそう決めて、スタートの合図を待ちました。
「スタート!」
おおいし先生の合図で、最後の曲がスタートします。
「♪~」
ゆうとくんが作戦通りに動き出そうとしたそのとき、なりだした音楽がすぐさま停まります。
(?!)
ゆうとくんは一歩ふみ出してから、あわてて事態を整理しました。そうです、おおいしせんせいがたまにしかけてくる、音楽をすぐ停めるいたずら、それがまさかの決勝で発動したのです。これはゆうとくんにとって、完全に計算外でした。さらに、あれ程考えてやっと思いついた作戦が、すっかりむだになってしまったのです。しかし、だとしても負けるわけにはいきません。運良く、ゆうとくんは先ほどと同様、イスのななめ前ぐらいにいて場所は悪くはありません。たかしくんのほうは、ほぼイスの後ろ、背もたれのほぼ正面にいます。
(勝てる!)
ゆうとくんは急いで体を反転させ、イスという名の領地を確保しようとします。しかし、たかしくんも負けてはいません。先ほどのみなはちゃんとは比べ物にならない速さで、こちらにやってきます。
(いけぇー!)
ゆうとくんとたかしくんの二つの体が、イスの座板の地平上で激しくぶつかり合いました。


作品名:chair 作家名:六色塔