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Cuttysark 『精霊』前/直後。

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『精霊』後




……

遠くから声が聞こえる気がする。

……ティ…

…カ…ティ…

それは良く知る声のはずなのに、酷く懐かしい気がした。

…カティ…カティ……!

どうして懐かしく感じるのだろう。
どうして、心が温かくなる気がするのだろう。
その理由は分からなかったけれども、どうやらこの声には答えなくてはいけない気がした。

カティ、カティ!





目を覚ますと、そこには木製の天井が見えた。
ランプが下がっているが灯されてはいない。
そばにある窓が視界に入り、明るい日差しが差し込んでした。
色が付いているように見えるから朝か夕方だろう。
身体を動かそうとすると酷くだるかったが、頭だけ何とか動かす。
窓と反対側には二人の人物が座っていた。
その向こう側には仕切りらしいカーテンが見える。
その二人の人物は二人とも顔色が悪く、転寝していた。
黒髪の青年と、銀髪の青年。
銀髪の青年は酷く憔悴しているようで、なぜ此処に座っているのか問いただしたかった。
黒髪の青年は、というと転寝していたように見えたがカティサークが頭を動かすとその気配に気付いたのかうっすら目を開けて前のめりになり此方の顔を覗き込んでくる。
「カティ?」
こちらもしっかりとは瞼を持ち上げられない。
「あぁ」
発した声は思ったよりも小さくかすれていて、相手に届いたかは分からなかったが口を動かしたのは分かったらしい。
見る見る表情を表すと、
「ああ、カティ。よかった」
大きく息をついて笑顔をもらす。
「どこか痛いところは無いか?もしくは、辛い場所とか」
それよりも、どうしてこんな場所にこんな状況でいるのだろうかと知りたい。
一体何が自分の身に起こって硬いベッドの上に寝ているのだろうか。
硬いベッドの上に薄いシーツをかけられて眠っていた。
その状況だけは分かってきた。
「レイラが蘇生の魔法を…お前、死にかけたんだぞ」
死にかけた?
その状況が思い出せない。
自分は隣国との国境で発生した紛争を監視警備するために集められた軍に所属して、そして……
「ああ」
思い出す。
自分がとっていた行動を。
この黒髪の青年ことガイボルグが傍にいたことも。
「俺は大丈夫だ。それよりどうしてお前達が?」
ガイボルグとキルスタンの組み合わせとは珍しい。
肉弾派のガイボルグと頭脳派のキルスタンは単純に組み合わせとしては良いコンビになれそうなのに、二人の性格が合わないのかなんなのか自ら望んで一緒にいるようなことがある二人ではなかった。
肉体派で単純なはずなのに、ガイボルグは何気に相性を選ぶ。
「レイラの蘇生魔法ってのが、人の生命力を移し変えるって魔法でな。俺とコイツでお前に生命力とやらを分け与えたんだがその後俺たちも役に立たなくなって。ホントは寝てろと言われたけどお前の見張りっするっつって」
で、現状らしい。
「コイツ、ほかで魔法つかったから生命力分け与えるのに適してないとレイラに言われたんだけど俺だけだと俺がやばくなるとか何とかってことで…」
キルスタンを示す。
ちょうど、キルスタンがうつらうつらとしながらも目を開けてカティサークたちへ視線を転じるところだった。
「有難う、キルスタン」
目が合って感謝を述べると、元から色白なせいもあって座っているのも困難に見えるほど蒼白な顔で口角をもちあげる。
「ガイもありがとうな」
今こうやっていられるのはレイラと二人のおかげだ。
「礼はベッドから起き上がって元気になってから言ってくれ」
そういうと、布団の中にあるカティサークの手をとってギュッと握る。
カティサークは力も出ず、その熱い手を握り返す事も出来なかった。
「ゆっくりやすんでろ。俺は伝えてくるから」
聞きたい事はたくさんあったが、今はその体力も気力も湧かない。
一瞬よろけながらも椅子から立ち上がり去ってゆくガイボルグの背中を見て、何故だか感謝の念が後から後から押し寄せてきた。