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二倍の薬

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おれは以前女医とつきあっていた。彼女の前で妻への不平を漏らしたことがある。下衆にも、妻を貶めることで女医の機嫌を取ろうとした。すると女医は、

「ちょっと懲らしめてやりなさいよ」
 おれに薬をくれた。
「そんなことを言って、間違って死んでしまったりはしないだろうね」
 女医はおれに妻を殺させようとしているのではないか。そんな疑念がふと生じた。
「その量ではぜったいに死なないから」
 女医は一笑したが、おれはその薬を使わなかった。疑念が拭えたわけではなかったからだ。医者と弁護士は信用ならない。
「何度もトイレに駆け込んでいたよ」
 と、おれは嘘の報告をした。

 最近になって、妻と女医が茶飲み友達になった。おれと不倫関係にあったことなどおくびにも出さず、妻とからからと笑い合っているいるのだから、やはり医者は信用ならない。
 接点などなさそうな二人がどこで知り合ったかといえば、乗馬クラブだ。妻はレジ打ちパートからの収入をすべてそこにつぎ込んでいる。おれには理解できないが、あまり言うと藪蛇になる。おれに甲斐性がないせいだと詰られかねない。
 そんなおれの気持ちも知らず、妻はおれが医者ならよかったなどと無理なことを言う。高給取りの女医と引き比べたのだろう。
「パートの後で行くと真っ暗になっちゃうのよ」
 今日も妻はこぼしているが、おれの知ったことじゃない。とうとうおれは頭にきた。そこで、おれは以前に女医からもらった薬をポケットに忍ばせ、何食わぬ顔でテーブルに着いた。手元のグラスに薬を盛り、妻のグラスとすり替えた。どうだ、これでしばらくは乗馬クラブどころではないだろう。おれは密かに留飲を下げた。

 妻はいつになく上機嫌で話しかけてくる。こんなに饒舌だったっけ? おれは相槌を打ちながら、手元のグラスを取り上げた。
「?」
 突然のめまいにおれはギョッとした。目の前が真っ暗になっていく。〈そうか、わかったぞ〉
 妻はおれへの愚痴を女医にこぼしたはずだ。女医はおれにそうしたように、妻に薬を渡しただろう。「だいじょうぶ、ちょっと懲らしめてやりなさいよ」と。
 誤算は、おれと妻が同じ日に決行したことだ。おれがまだ薬を持っているとは思いもよらないのだから、女医を責めることはできない。妻は、おれが薬を入れ、すり替えたグラスだとはつゆ知らず、そこに新たに薬を盛った。そうして、そのグラスをおれのとすり替えた。このグラスには二倍の薬が入ってしまったわけだ。それはもう、ちょっと懲らしめるくらいで済むはずはない。おれは霞んでいく妻の笑顔をただ見つめた。
作品名:二倍の薬 作家名:順店