ロケラン男
天気は快晴で、爽やかな風が肌先を優しく撫でるように吹き去り、水色に染まった空を日の光を中心とするように薄ら白い雲がゆったりと動いている。
公園のベンチの周りには誰もいなくて、感傷に浸ってるようなそんな気分の自分一人がポツリ。
勿論、気分はいつも通り憂鬱で最悪。
いつもやらなきゃいけないことからただ逃げ出して、目の下まで伸びてる黒髪の間からこの世界の空をただボーっと眺めている。
自分の世界に篭りたいとか、ただ、そんだけの理由で。
「分かるよ、少年」
「えっ?」
「俺も良くあるんだ、この世界を吹っ飛ばしたいとか、良く、想像するんだ。皆いなくなれって。そうすりゃ、きっと何かが変わって、自分の世界がもっと広くなるんじゃないかってな。少年。」
茶色の帽子に白いTシャツの上に茶色の薄いコート。ピシッとした茶色のズボン。黒いローファー。そんな容姿の30代くらいの大柄な男が自分の座っているベンチの隣にいきなり座り込んだ。
「どうだ、一緒に吹っ飛ばさないか。この世界を!この俺とこのロケットランチャーで!」
そう言うと男はどこからかいきなり巨大なロケットランチャーを取り出した。本当に。どこからか。
「どうせ、この世界は君を無視するぞ!経営者なんてのは人を奴隷のように扱い、糞みたいな賃金で働かせにくる!死ぬか、糞みたいな賃金で働くか、違うな!ロケランで吹っ飛ばす!
モテない人間とモテる人間の差はより一層深まる!金の無い奴はモテない!顔の良くない奴はモテない!モテない、モテない!優しさなんて勿論意味なんて無いぞ!優しさだけでモテてる奴なんて見たこと無い!なら、最初からロケランで吹っ飛ばす!
彼女どころか友人すら出来ない人もどんどん増えるだろう!つまりだ、孤独死する前にロケラン使って全て吹っ飛ばしてから死ねば良いじゃないか!
生きるというのは大変だよ少年!だが、吹っ飛ばすというのは簡単だ!どうだ、放ってみないか!ロケランを!」
「何言ってるか分かんない。」
本当に。
「この世の不幸な人間の味方ってことだ!少年!」
男が白い歯を光らせて笑う。自分はひきっつたように少しだけ笑った。
「でも、そんなことしたら、きっと皆死んじゃうよ。」
「きっとじゃない。皆死ぬんだよ。ロケラン撃たれて生きてる方が珍しいだろう。まぁ、良いじゃないか。皆死んだって。誰かが生きてて、この不幸が治るワケないだろう?そんなに世界が優しいもんだとは思わないがね。なんなら、他人が生きてるせいで増える不幸の方が多いくらいだ。なら、皆死んじゃった方がましだと思わないか。勿論、自分を残してね。」
「でも、きっと、何か、」
あると信じたい
「俺の話は正直だと思う。何かあると言おうとしたんだろうが。あるかね、何か?さぁ、撃とうぜ。皆、考える時はある。不幸を貯め込み過ぎて、何かこの世の中を吹っ飛ばせる手段は無いかと探る時が。だから俺がいて、ここにロケランがあるんだぜ!誰も解決出来ないだろうその衝動を!さぁ!共にロケラン使って満たされにに行こうじゃないか!後は生き残った君が主役なのだ!」
僕はロケランを持った。不思議なことに僕の細い腕でもそのロケランは軽々と担げた。そして、僕は
ロケランを放った。
第2
白い瓦礫に埋まれた街。その瓦礫の上に僕は座って、代わり映えしない青空を見上げる。
街中には僕がロケランを撃ったせいで死んでしまった人や、粉々に壊れたものがあちこちにあって、夕暮れ時には薄暗さも相まって静かな哀愁を感じる。
僕にとっての世界はロケランを撃つ前と何も変わらなかった。こんな風に空を眺めていられるのがその証拠だ。
「どうだ、少年!案外、スッキリするもんだろう!」
男は世界がこうなった後もどこからかロケランを持ってきてひたすらにどこかに向けてそれを放っている。
「あんた達ね、これをやったのは!」
どこからか10代そこらの少女が現れた。
「なんで、なんで、こんなむごいこと…なんでよ!」
さぁ、なんでだっけ。暇だから?違うな。何かにイライラしていた?それも違う。
「なんでって、そりゃぁスッキリするし、」
ロケラン男が応える。
「友達も!家族も!皆、皆…」
少女が遮った。泣きながら。
「あぁ、そう。いなくなってスッキリしたな。おめでとう。」
ロケラン男が少女に向かってほほ笑んだ。
「何ですって?本当に、あんた、それ、本気で?」
「あのさ、死んだんだから、関係無いだろう。友達も家族も死んだ。じゃあ、終わりだ!終わり!普通に終わりだろ。他に何かあるか?終わりなんだよ。そして、スッキリした。な?」
ロケラン男が必死に少女に説得するように叫ぶ。
「ふざけないでよ!」
少女が泣きながら何か必死になって叫ぶ。
僕はそれを空を見上げながらただ聞いていた。
「あんたも何か言いなさいよ!」
何だっけ。
「あぁ、えっと、ごめん。何も聞いて無かった」
僕は応えた。正直に。
「え、な、何で…」
水色の空の上、雲は気持ちの良い日の光を遮らないようにフワフワとゆっくり動いている。風は瓦礫の上に座った僕の肌上を優しく撫でるように吹き去っていく。
白い瓦礫に日の光が反射して、キラキラと光り輝く。
「人の話を…」
輝く光を見て、僕は綺麗だなって思った。
「何で…何で…」
そして、眠くなった。
「この…人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!!ハァハァ……」
少女が僕に一生懸命瓦礫の破片を投げつけてくる。その破片の一つが僕の頭に当たって、血が湧き出た。
「ハァハァ…良い様よ!これで少しは分かった?人の痛みが!ねぇ!」
白い瓦礫の上を僕の血が滑っていく。日の光が血に反射して、薄れてゆく意識の中にいる自分には、赤い光輪が華のように見えて、本当にそれが見えて幸せだって少しだけ笑った。