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BYAKUYA-the Withered Lilac-5

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Chapter13 眩き闇(パラドクス)と捕食者(プレデター)


 ビャクヤとツクヨミは、『虚ろの夜』を進んでいた。
 やがて二人は、夜空に出た真っ赤で、すぐ近くにあるのかと錯覚させられる月が照らす駐車場のある場所にたどり着いた。
「すぐ近くに強力な顕現の高まりを感じる。もうすぐね。この先を行けば、今宵の『深淵』にたどり着く」
 ビャクヤは、不意に小さく笑った。
「ハハハ。『器』って割れててもそういうのは分かるんだ。風邪を引いて鼻がつまってても。強烈な匂いは分かるってところかな?」
 ツクヨミは、ため息をつく。
「……もう少し例えを選んで欲しいものね。私は顕現の察知には自信がある。あなたのように戦う力はないけれど、顕現を感じ取ることに関しては、並の『偽誕者』に遅れを取ることはないわ。言ってみれば、私の能力は精神特化(センシティブ)ってところかしらね」
「おー。でたでた。姉さんお得意の邪気眼発言」
 ビャクヤは茶化した。
「だから……! はあっ……もういいわ」
 否定しようとするツクヨミだが、言ったところで余計に状況が悪くなるだけだと思い、黙ることにした。
「そうそう。邪気眼といえば。さっきのメガネのお兄さんもなかなかすごかったよね。小難しい単語並べるくせに雑魚過ぎて。さ」
 ここに来る途中、ビャクヤとツクヨミは、ある青年と出会っていた。
 その青年は、ケイアスといい、『忘却の螺旋』における参謀と言っていた。
「そうね。参謀って割には妙に血の気が多かったわね。かつては『暴君ケイアス(ブラッディケイアス)』なんて呼ばれていたけれど、異名の通りってところかしらね」
 自らを頭脳派と自称する彼の武器は、『混沌の経典(ケイアス・コード)』という、虚無を封じた書物であった。
 アジ・ダハーカという、世界中に伝わるドラゴンの伝承の中でも最強の存在の名を付けられた虚無を従え、その獣の爪牙をビャクヤへと向けた。
 ビャクヤの力を危険視した故の襲撃であった。参謀を自称するだけあって、ケイアスは、ビャクヤの能力は『眩き闇』さえも危機に追いやるのではないかと考えたのだった。
 勝負は、ほぼ一瞬で決してしまった。
 伝説上では、最強にして最悪の力を持つドラゴンの名を冠した存在であっても、虚無であるからには、ビャクヤにとっては捕食の対象に違いはなかった。
 虚無の爪も牙もビャクヤには届かず、逆にビャクヤの鉤爪の餌食となった。
 負けが分かった途端、ケイアスは逃げていった。自らの首領である『眩き闇』に危険を知らせに行ったのだった。
「しかし驚いたわね。ビャクヤ、まさかあなたがあの『罪切の獣』を倒していたなんてね」
 戦いの前に、ケイアスが言っていた。『忘却の螺旋』の幹部の一人、『罪切りの獣』ことエンキドゥという男が、名も無き『偽誕者』に敗北した。
 一命を取り留めたエンキドゥは、自分の身に起きたことを幹部全員に話し、より高みを目指すべく組織から抜けたのだった。
「うーん。あんまりよく覚えてないんだけど。倒した相手からは顕現を戴いて。後はそのままにしちゃうからね」
 ツクヨミは、いつぞやビャクヤが明け方に帰ってきた時に、顕現をほとんど持ってない『偽誕者』と戦ったと言っているのを覚えていた。
 ツクヨミはその時、ビャクヤが戦ったのがエンキドゥではないか、とふと思った。
 エンキドゥとは面識がそれほどあるわけではないが、ツクヨミは以前、『万鬼会』と『忘却の螺旋』の決戦において、彼の姿を見ている。
 戦いに先立ち、『忘却の螺旋』の幹部については調べていた。その時に、顕現をまるで持たず、己が拳にて戦うという、かなり変わった『偽誕者』の存在を知った。
「まあ、いずれにせよ、残るはあの女だけ。借りを返すには丁度いいわ」
 今宵、ケイアスと戦った事により、ビャクヤは『忘却の螺旋』の幹部全てと戦い、その全てを破った。
 そして残るはその親玉、『忘却の螺旋』の総帥、『眩き闇』ことヒルダ、彼女を残すのみであった。
「あの女の全ては、その顕現のパワー。小細工なんか一切使わずに力押しで相手をねじ伏せる。そんな女よ。力だけの女と侮り、敗れていった者は数知れないわ」
「その口ぶり。まるでそいつと。実際に戦ったことがあるみたいだね」
 いいえ、とツクヨミは首を振る。
「私自身が戦った事はない。私は、戦っている者に少し力を貸していただけよ」
「んー。よく分からないね」
「とにかく私たち、いえ、あなたにやってもらうことは決まっているわ。あの馬鹿力だけの馬鹿女には、一度馬鹿痛い目に遭ってもらうの」
 言ってからツクヨミは、少し品の無い言い方をしてしまったと思った。ついつい口が悪くなってしまうほどに、ヒルダから受けた借りは、ツクヨミにとって大きかった。
「ハハハ。何やら因縁が深いみたいだね。けど。僕そういうの懲らしめるの好きだよ。どっちがより愚か者か。見せてやろうじゃないか」
 ビャクヤに恐れる様子は無かった。
「頼もしいわね。では行きましょう。『煌(ひかり)と朧(やみ)の祭壇』、と言っていたかしら? あの参謀さん」
 ヒルダがその財力と『忘却の螺旋』の組織力を以て造った特殊な施設、それが『煌と朧の祭壇』であった。
 見た目こそ雑居ビルのそれであるが、その内装は浮世離れしている。
 『忘却の螺旋』の頭脳であるケイアスが『深淵』の出現位置を予測し、急ぎ造り出したのだった。
「『眩き闇』だっけ? その人。飽きっぽい性格らしいじゃないか。早く行った方がよさそうだね」
「そうね、先を急ぎましょう。ビャクヤ」
 歩いているうちに、二人の前に『煌と朧の祭壇』を内包する雑居ビルが見えてきた。同時に顕現の高まりが更に上がった。場所は間違いないようであった。
 ビャクヤとツクヨミは、血戦の地へと歩みを進めるのだった。
    ※※※
 雑居ビルの一部を使って造られた、西洋の宮殿の一室のような場所があった。『忘却の螺旋』の総帥、『眩き闇』ことヒルダが、私財を投じて造った『煌と朧の祭壇』である。
 宙を浮遊しているかのように吊られたシャンデリアがいくつかあり、祭壇奥へと続く大きな扉へと深紅の絨毯が敷かれている。
 奥に続く扉には、『忘却の螺旋』のシンボルマークが大きく、隙間無く描かれていた。
 そんな宮殿であり、また神殿でもあるような一室にて、一組の男女が言い争っていた。
「ヒルダ、君の強さは確かだよ。それは僕も断言できる。けれど、これからやって来る彼は危険だ。顕現を喰らうんだ。いくら君の巨大な顕現で力押ししようと、彼の前では無力だ」
 先の戦いでビャクヤに呆気なく敗れ、逃走を図って祭壇へとやってきたケイアスが、ヒルダを説得していた。
 ケイアスの前にいる女、ヒルダは、左右で白黒に分かれた色をしたタイトなドレスを身に纏い、首周りには黒いファーを着けている。
 プラチナブロンドの足下まで届きそうなとても長い髪を一纏めにし、その瞳は左右違った色をしている。
 『忘却の螺旋』の総帥というだけあって、非常に豪華で、麗しい容姿をしていた。
「ヒルダ、聞いているかい?」
「はいはい、聞いてるわよ。それで、アタシに逃げろって言うつもりなのかしらぁ?」
 ヒルダは、ケイアスの説得にうんざりした様子でそっぽを向いている。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-5 作家名:綾田宗