パニック障害を起こしている犬の話
死を理解できない犬だが、犬にとって救急車が人さらいの恐怖の象徴、あるいは死刑執行合図の様な存在になった。
サイレンが鳴る度、今度は自分がさらわれる番だと思う犬。あるいは今度こそ自分も処刑されるのではないかと思う犬は恐怖で絶叫する。
サイレンが鳴る度、サイレンが近付く度、パニック障害を起こしたかの様に絶叫する犬。
赤いネオンとサイレンに反応する犬は消防車やパトカーにもパニック障害を起こす様になる。
恐怖に満ちた断末魔が聞こえない日はない。
犬はサイレン音と赤色の光に過敏になり悪夢でも見ているのか、それとも心が病んで幻聴が聞こえる様になったのかもしれない。
ある時から犬はサイレン音がしなくても絶叫を始めた。それまでは一日2〜3回の絶叫で済んでいたが、一日6回殆になる。
毎日、雑巾を絞る様に泣き叫ぶ犬。
普通なら近所迷惑になりそうな音量だけど、鳴き方が不憫なので誰も文句を言わない。
この犬を助けるには、犬に耳栓(サイレンの音に反応してヘッドホンから自動でやや強めの音楽をかけるものを着ける)でもするか、救急車やパトカー、消防車の存在しない街(途上国)にでも引っ越してあげるか、防音設備が完璧な所に住むしかない。
どれも課題が大きい。そもそも、今の飼い主さんが、外飼いではなく、室内飼いにするだけでも、犬にとって気が紛れて症状が改善するかもしれない。
恐らく、今の飼い主は、あまりその犬を愛していない…
作品名:パニック障害を起こしている犬の話 作家名:西中