どこかの途上国でありそうな貧困話
クレヨは悲しい男であった。小さい頃に両親を自爆テロで失ってしまったのでずっとストリートで生きてきた。観光客に「なんかくれよ。なんかくれよ」と物乞いするので、いつしか、クレヨと呼ばれるようになった。
そんなクレヨも今年で五十。もはやストリートチルドレンではなく、ストリートおっさんだ。
同じく小さい頃に両親にゴミ箱に捨てられたウーという女性は、そんなクレヨが憐れでならない。
ウーは、クレヨとは対照的に、体一貫でのし上がった。7歳の頃から体を売る商売をしている。13歳の時には売春宿を経営し、経済的な自立をしていた。
「ああああ。ウー様ぁ。食べ物を食べ物をぉぉ」
「汚い手で触らないでちょうだい!」
ウーは、クレヨの手をはたき、ベンツに乗り去る。
しかし、翌日になると、また、クレヨのとこへ行く。
「ウー様ぁ。ウー様ぁ。お金を。お金をプリーズ。プリーズ」
「早く死になさい!」
ウーは、クレヨの頭を叩き、ベンツに乗って去る。
そんなことを何十年も続けている。
しかし、街の人はクレヨに優しかった。
ウー以外はみんな優しかった。空き缶にドッグフード入れてくれたり、魚の骨を入れてくれる。だから、クレヨは今まで生きてこられた。
クレヨは、悪口屋をしていた。
街頭で、みすぼらしいクレヨが、通行人に「馬鹿。あほ。死んでしまえ」と悪口を言いまくる。
すると、むかついた通行人がクレヨの方に歩み寄り、「お前こそ死ね。ボケ。カス。社会のくず」と罵る。
すると、どうでしょう。通行人の心が晴れ渡るではないですか。雲ひとつない青空のように
イジメの対象があることで、ガス抜きになる。
だから、みんなお礼にりんごの皮や、芋のしっぽをクレヨにあげるのである。
しかし、転機が訪れた。みんな、クレヨに食べ物をあげなくなってしまったのだ。
理由は簡単である。
クレヨはみんなに悪口を言われ続け、最初は魚の骨とかもらって喜んでいたが、慣れてきて、もっと良いものが食べたくなった。
そこで、クレヨはみんなに好かれようとキャラ変換をし、いい人になろうとしたのだ。
「お嬢ちゃん!きれいだね!食べ物ちょうだい!」
「おっさん!服かっこいいね!食べ物ちょうだい!」
みんなくれるはずもない。だって、クレヨがそんなんだと悪口を言えないじゃないか。虐めても楽しくないじゃないか。
そんな裏事情は知らず、クレヨはボランティアも始めた。どぶさらいや、土手の草刈を黙々と続けたのである。
しかし、ついに、餓死してしまった。
遺体が土手で発見された時、クレヨの表情は実に笑顔ですがすがしいものであった。
発見した人々は、ここぞとばかりにクレヨの死体に次々に蹴りをかましたり、腹を破いて小腸を取り出し振り回したり、とにかく、日常のストレスを吐き出した。うっぷんを晴らした。
作品名:どこかの途上国でありそうな貧困話 作家名:西中