女の子
私が小学三年の晩秋の頃、同い年くらいの見知らぬ女の子に誘われて山に登った。
女の子は、時代劇に出てくるような着物を着ている。
女の子が可愛くて、見たこともない子だったから、興味本位について行った。
女の子は、何にもしゃべらず、只「あっち」と言う風に、山の頂上の方を指さしている。
私は、女の子が速足で山を登るので、遅れないように、ついて行った。
山の中腹まで登った頃、太陽が山に半分沈みかけていた。
私は何となく、ここまで来たことを後悔し始めた。
「ちょっと、何処まで行くの?」
私がそう言うと、女の子は振り返らず、「あっち」と山の頂上を指さした。
「もう陽が沈みかけているよ、そろそろ返らないと暗くなってしまうよ」
私が心細さから、半泣きの顔で言うも、女の子は只前方を指さして、速足で歩くだけである。
山道は上がるにつれて、段々と道幅も狭くなり、やがて獣道の様になってきた。
道は整備されておらず、藪に覆われ、拳大の石がゴロゴロと転がっており、歩くのが難しい。
私は女の子に離されないように、必死で後をつけて行った。
まわりがすっかり暗くなり、山の上には驚くほど大きな満月が出ている。
しかし大きな月が出ている割には、辺りが無暗に暗かった。不気味なほど静かである。
よそ見をしていると、女の子の白い着物が見えなくなるので、全神経を女の子の後ろ姿に注いだ。
私は萱や伸びた枝で何度も腕を擦り、腕からは血が流れていたが、そんなことより女の子を此処で見失ったら、大変なことになると思い、痛い事も感じなかった。
しばらくすると、何かの音が聞こえ始めた。歩き進むうちに、段々とその音が大きくなって来る。
やがて、藪のトンネルを抜けると、前方に古びたお寺が現れた。
その横に池があり、そこには滝が流れ落ちている。
お寺は漆黒の闇の中、不気味に存在している。池に落ちる滝の飛沫だけが暗闇に白く浮かび上がっていた。
女の子はお寺の後ろにまわって行った。
夜中にお寺に来たことは、初めてだったので、お寺の後ろに行けば、何かが出そうで怖かった。
私は恐る恐るお寺の後ろにまわった。
しかし女の子の姿は、何処にも見当たらなかった。そこには、小さな石を重ねた墓があるだけである。