光は空と地上に輝く(1)
そこにはピンクのカーペットが広がっていた。今年二回目のカーペットは一回目より綺麗だった。一回目をカーペットと言っていいのかと思えるけれど、本当に綺麗だった。
「え、すっごいキレイ…」
「でしょー!誘って良かったー」
それから数時間、あの日と同じように、今度は桜のカーペットをふたりで歩いて丘に行った。この日は家につくまでずっと手を繋いでいた。
「ホントに綺麗だったね。また明日ね!」
「うん!今日はありがと!また明日ね、流架!」
目が合って更に頬が赤く染まった。そのままふたりとも家に帰った。
今日のことを思い出しながらベッドに横になっているとラインが来た。
『誕生日おめでとう!また明日ね!』
時計を見ると、五月一五日(日)0時0分 03秒。
『ありがとう!楽しみにしてるね!また明日!』
画面を閉じるとすぐに眠りについた。
流架と一緒に学校に来て職員室に行ってから席に座ると、廊下に出ていた流架が駆け寄ってきた。それも、さっきまで一緒に登校していたのに、今日はじめて会うかのような勢いで。
「おめでとー!今日3回目だけど」
「ありがと!何回言うつもり?」
登校中にもおめでとうと言われていた。それが二回目。
流架に続いて遥もお祝いしてくれた。
「それで欲しいもの思いついた?」
二回目のおめでとうの後に、「欲しいものある?」と聞かれた。正直これと言って欲しいものはなかった。楽しい日々があればいいと思った。それで「考えとく」と言った。
まさか考えとくと言った一〇分後にまた聞かれるとは思っていなかった。
「早いよ。まだ全然思いついてないよ」
「じゃあ帰りにまた聞くね」
そして帰りになった。学校を出てすぐ流架からあの質問をされた。
「欲しいもの決まった?」
私は待ってましたと言わんばかりに答えた。授業中も考えていた。そして授業中にふと思いついた「あるもの」が欲しいと思った。
「決まったよ。アクセサリーほしい」
「じゃあ今から行こうよ!」
駅に着くとすぐに駅に向かった。駅に行けば雑貨から服や時計まで何でも買い揃えられる。アクセサリーショップを探しながら、雑貨屋やファッションブランドに立ち寄った。その雑貨屋に続くこのエスカレーターに懐かしさを感じた。でもそれが何なのかは思い出せない。胸の辺りに違和感が残る。歩きながら流架が、
「どんなアクセサリーほしいの?」
と聞いてきた。
「別にそこまで決めてはないんだけど…」
歩きながら目に留まったアクセサリーショップに立ち寄っては探し回った。流架も気に入るような、そんなアクセサリーを。しばらくしてからあるネックレスに目が止まった。
「これどう?私たちにぴったりじゃない?」
「いいね、それにする?」
「うん!」
そうして買ったアクセサリーは、私たちにとってとても意味のあるものだった。日本らしくもあり、同時にオシャレなそれは、ふたりから季節の移ろいを奪う。私たちだけの春だけが続く。しかもそれは散ることもない。私たちの幸せな時間は永遠に感じられた。
家に着き、ソファに座り、帰っている途中に想い出したことを考えていた。
3年前にあの雑貨屋で翔とお揃いのものを買ったことがあった。その時買ったのはキーホルダーだった。中学生にとっては妥当だ。高校生になったらもうちょっと高いもの欲しいなと思った記憶がある。結局翔と同じ高校には通わなかったけれど、あの頃は翔と一緒のものを使っていると思うと、デザインが同じなだけなのに、すごく嬉しくなった。今は流架とずっと胸元に光る春の桜を見れて嬉しい。
楽しい記憶とともに、私は眠りに落ちた。
最近翔の夢を見ない。私は得体の知れない不安を感じた。胸の辺りがまた違和感に包まれる。
~流架が来て三ヶ月~
最近また翔の夢を見るようになった。でも今までとはまったく違うものだった。いつもならはっきりと見えていたのに、翔の顔が出てこなかった。翔は今どこで何をしているのか知りたい。何度もそう思った。高校になってから1度も会えていない。久々に会いたい。いつか会えたらいいな。夢を見るたびにそう思う。
今日は昼まで寝ていた。たっぷり寝て夢をみる時間は多いはずなのに、それでも顔は出てこない。何年もずっと見てきた顔なのに。
午後は家でのんびり本を読もう、そう思って本を探し始めた。私はかなりの読書家らしく、大きな本棚でさえ悲鳴をあげるほど本を持っている。上の方をあさっていると、ある本が棚から落ちた。見たことのない本だった。気になって読み始めた。
読み終わった時には三時間も経っていた。まあまあ面白かったけれど、でも未だにこの本の事を思い出せない。ママに聞くことにした。
「ママ、この本知ってる?」
「…知らない。香歩持ってる本多すぎるもの。」
なぜかわからないけど、ママは知ってる気がした。知ってるとしたら何で隠すのだろう。とりあえず忘れることにした。
部屋に戻ろうとした時チャイムがなった。「出て」と言われたのでドアを開けると、遥が立っていた。
「遥どうしたの?」
「遊びに行こ!」
「今四時だよ?オールする気?」
「しないしない!まぁ帰りは9時かな」
着いたのはカラオケ。中学生の頃からよく来ていた場所だった。でも何でこんな時間に…。
八時まで歌った。ふたりで歌いまくった。明日喉死んでそう。ふたりともそう思った。流れのままに聞いた。
「何でカラオケなの?」
「んー、行きたかったから?」
楽しかったからいいかと納得…はしてないけど気にしないことにした。
家に着いて、よっぽど疲れていたのか、すぐに眠りに落ちてしまった。
「香歩!学校遅れるよ!いつもより長めに朝風呂入るんでしょ?そろそろ起きないと!」
私は飛び起きた。
「そうだった!やっばい!急がないと!」
ママを起こしてしまうほど大きなひとりごとだった。まずいと思ったときにはもうママは起きていた、
「香歩。うるさいよ。まだいつも起きてる時間じゃないよ。ママまだ寝るから静かにして。」
気を遣いながらお風呂に入っていると、ふと思い出した。さっき起こったおかしなことを。ママは、寝ていたのに、起こしてくれた?そんなことあり得るの?そう思ってママに聞くことにした。
ママが起きてきてから聞いてみた。
「ママ私を起こしてくれた?」
「何を言ってるの?自分で起きて叫んだんじゃない。寝ぼけてるの?早く顔洗ってきて。ママ顔洗うの遅くなるから。」
私に何が起きているの……。
私は何で今日起きられたの……。
起こしてくれたのは誰なの……。
疑問と不安。それが私を押し潰しそうで恐ろしくなった。
潰される前にさっさと家を出て流架との時間に浸る。
「どうしたの?顔色悪いよ?大丈夫?」
「あー大丈夫!平気平気!疲れちゃったのかな」
何もなかったかのように取り繕う。気づかれても今朝のことを話しはしない。流架が話を信じる信じないより、自分がおかしいとわかる方を恐れた。自分が自分でないように思えた。
作品名:光は空と地上に輝く(1) 作家名:MASA