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光は空と地上に輝く(1)

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 一面の銀世界が広がる公園。青と白が見渡す限り果てなく広がる。凍った湖の傍では、皆が様々な楽しみ方でこの自然を満喫している。バナナボートを楽しむ人は、スノーモービルに牽かれた黄色い船の上で激しく揺られ喜んでいる。また、釣りをする家族は、子どもが白い海から小さな魚を何匹も釣り上げ喜ぶのを見て両親が笑っている。そして、白銀のベッドの上では、全身真っ白になりながら走り回るふたりの子ウサギが、笑顔いっぱいに自然を謳歌している。。
 ふたりの子どもは疲れたのか、白銀のベッドにダイブして横になった。
「かほちゃんおそいよー」
「かけるが早いんだよー」
頬を膨らます女の子。そして、男の子は微笑んでから、また起きて走り出した。女の子はついていくのに精一杯だったけれど、楽しそうに男の子を追いかける。ベッドにはいくつもの小さな足跡が刻まれていた。それが無数に続いていく。
「かけるー」と楽しそうに叫ぶ私…………目の前には天井があった。
「あー。戻りたい…。ただただ楽しかった日々に。」
翔の夢を見るといつも心の中で呟く。いくらそう思っても叶うことはないとわかっている。それでも…。
 
坂を上り桜の枝を見て、いつも通り一人で登校し学校に着くと、やはり彼は話しかけてきた。
「おはよー!いい朝だねー!」
 ここ一週間いつもそう。彼だけが私に話しかけてきた。もちろん笑顔で。やはり外では太陽が輝き、春の訪れを告げている。彼に笑顔でない日はないのかと、太陽が似合わない日はないのかとこの一週間ずっと思っている。私とは正反対の彼は、早くも他のクラスメイトと仲良くなり、音楽の話やアメリカの話で盛り上がっている。もちろん、あのまぶしい笑顔は絶えることがない。
 私はいつも「おはよう」と返す。俯いて、笑わずに。単純な作業のように。
 朝を過ぎるといつも通りの日々に戻る。真面目に受けているオーラを出しながら授業を流し、あっという間に過ぎ去る授業の合間の時間で本を読み、一日が終わる。でも、帰りはいつもと違う。幸か不幸か、私と彼は同じマンションだった。最近引っ越してきた家族がいたとは思っていたけど、彼の家族だとは思わなかった。そして、マンションの玄関で会うたびに、彼は決まって私に話しかけてくる。あの笑顔で。
「河合さんじゃあねー!」
「また明日」また笑わずに返す。
 それが一週間続いた。
 最初は嫌だった。それが、一週間後、私たちの関係に蕾がついた。桜の蕾よりも遥かに小さいけれど。



~転校生が来てから一ヶ月~

私たちの間に咲きかけた桜の蕾が大きくなった。私と彼は一緒に学校に向かっていた。もう私の耳元では音楽は流れていないし、バスから降りてくる他の生徒を邪魔には感じない。病院の前では患者さんと看護師さんに挨拶をするようになり、校門で待つ鬼も苦に感じなくなった。校門の近くに並ぶ桜並木の花びらは、一部が散っていた。今までの真っ黒なアスファルトはなくなり、うっすらとピンクに染まったカーペットの上を歩いている。頭上にはほんのりピンクに色づいた桜と澄んだ青空が広がる。頭上からまばゆい光が私たちをめがけてさしてくる。
「香歩がこんなにおしゃべりだなんて思わなかったよ。やっぱり笑ってる香歩の方がいいね」
そう言って流架は笑った。
「やめてよ恥ずかしいから」
私も笑っていた。
 
流架と仲良くなった私は変わった。最初は心の底から毛嫌いしていたが、彼の人柄や一つ一つの行動に触れるうちに、彼なら信用できると思うようになった。そして、流架と仲良くなってから、流架の友達とも話せるようになり、友達が増えた。それも、私を裏切らなさそうな、信用できる友達ができた。いつもは本を読んで過ごしていた時間はおしゃべりの時間になった。音楽を聴いていた時間は流架や友達との時間になった。流架が本当の私を引き出してくれた。笑顔が増えた。皆が純粋だった昔のように…。
二週間で私は本当に変わった。

「…ほ。香歩ー。おーい」
肩をとんとんされて驚いた。と同時に物思いから流架へと意識が戻る。流架の方が驚いていた。
「ごめん。考え事してて…」
「大丈夫だけど驚きすぎだよ」
「お互い様でしょ!」
そう言ってふたりで笑いあっていた。
「今度の土曜日遊びに行かない?」
「いいけどどこ行くの?」
流架は「内緒」とだけ答えた。
 
学校に着くと私たちは自然と「おはよー」の輪に入っていた。私も太陽の輪に入ることができた。今でもホントに香歩?本当は香歩じゃないんでしょ!と何回もからかわれた。それくらい、私は変わった。それに、あのつららは解けてなくなった。今では女子とも仲良くできている。
 友達と教室を移動する。左には教室、右には吹き抜けがある。しかも教室の廊下側の壁はガラス張り。いつもガラスに自分の姿が映る。それは一ヶ月前とは違う、前を向いて、友達の方を向いて歩く、明るい私を映す。

「さようなら」「さようなら」
学校が終わるとすぐ流架のところへ行く。
帰りも流架と帰って、いつもどちらかの家に寄って話をするのが日常になっていた。
「ねぇ、どこ行くか教えてよー」
「内緒~」
「まぁいいやー楽しみにとっておくよ。」
 すぐにマンションに着いてしまう。楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。学校から家が近いことを恨んだのは初めてだった。友達には「近くていいなー」とか「家交換して」とか、羨ましがられる。地下鉄に乗らなくて済むからだろう。
「今日はどっちの家にするー?」
「流架の家にしよ」
流架の家と私の家は目と鼻の先だ。何せ同じマンションなのだから。今では家族ぐるみで仲良くなった。
「香歩ちゃん、いらっしゃい」
 そう言ったのは流架のお母さんだ。ロングの黒髪はさらさらで輝きを放っている。整った顔に、若々しく見えるこの容姿。まったくこのお母さんがいてこのイケメンがあるんだなと思った。それにとても上品だ。そこは流架とは似ていない。
「おじゃまします」
 お母さんに挨拶してからすぐ流架の部屋に行く。部屋の壁には大人気ロック歌手のポスターが貼ってある。あぁいつもこのバンドが好きだって言っていたなと思いながら、私も少しずつ好きになりつつあるそのバンドのポスターを見ていると、もっと私の興味を引くものがあった。
「あれ?これ…」
「ん?あーそれねー」
 流架はそう言って「それ」を持ち上げた。そこには湖を背景に二人の男性と一人の子どもが写っていた。太陽でより真っ赤に見える紅葉が湖を囲う。
「昔何回も遊びに行ったんだー。僕の宝物だよ!この時にお父さんの友達の子どもと仲良くなったんだけど、その時その友達の子が寝てて三人で撮ったんだ。」
 とても楽しそうだった。子どもの頃に戻ったみたいに。
「お父さんとお父さんの友達と行ったんだよ。今はアメリカにいるんだけどね」
 流架のお父さんはアメリカに単身赴任している。いや、どんだけすごい家族だよ…。ついつい苦笑いしてしまう。
「あ、そうだ!夜はLINE電話ね。また忘れたら……」
「忘れないからそれだけは……」
というのも、ある日流架がLINE電話の約束を忘れたことがあった。そして次の日学校で、
「高校生がこちょこちょって子どもっぽいなー」
そう言う流架に構わずくすぐった。
作品名:光は空と地上に輝く(1) 作家名:MASA