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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導姫譚ヴァルハラ

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「言ってくれるじゃあないのさ。フレイあんたの雄志魅せておやり!」
 一気にフレイのスピードが上がった。これなら逃げ切れる!
 シキも急いでそのあとを追った。
 遥か後方では不気味な赤黒い〈バベル〉が沈黙して聳え立っていた。
 嵐の前の静けさ。

 シキの隠れ家の一つである地下シェルター。
 ベッドで寝かされているケイは、元のケイの姿に戻っていた。ただ、顔は戻っても、髪の毛の長さや着ている花魁衣装はそのままだ。
 部屋の片隅ではアカツキが項垂れて床に座っている。下ろした長髪はボサボサで、白塗りのメイクは崩れてしまっていて酷い有様だ。廃人同様だった。
 テーブルに置かれた料理を頬張っているのは炎麗夜だ。
「こんな物より骨付き肉が喰いたい!」
「こんな物とかいいながら、ここにある保存食すべて食べる気?」
 呆れたようにシキが言った。
 料理はすべて保存食だ。缶詰めのバリエーションが多く、その中には肉の缶詰めもあるのだが、炎麗夜はそれでは満足できないらしい。
 ベッドから動く音が聞こえた。
 死んだようにしていたアカツキが、息を吹き返してベッドに飛び乗った。
「紅華を出せ!」
 血走ったアカツキの瞳をケイが見つめた。
「……ぷっ、ひっどい顔、ウケル。あははははっ!」
「うるさい、早く紅華を出せ!」
「わかったから、早く顔を洗ってきなさいアカツキ」
 声はケイのものだったが、雰囲気が少し違った。
「…………」
 アカツキは無言でケイを見つめ、しばらくして部屋を出て行った。
 ベッドから起き上がったケイは、満面の笑みでテーブルに着いた。
「お腹すいちゃったぁ。このフルーツ缶詰めもらいますねっ」
 美味しそうにフルーツを頬張るケイを、炎麗夜は不思議そうな顔で見つめていた。
「元気でなによりだけど、ケイだよな?」
「そーですよ。いろいろわかって吹っ切れて、元気になっちゃいました」
「なにがあったんだい、ケイの身に?」
「それはアカツキが戻ってきたら話しますね」
 ニッコリとケイは笑って、ほかの缶詰めを開けはじめた。
 シキは少し重たい表情をして、炎麗夜を真摯に見つめていた。
「ボクのことは聞かなくていいの?」
「話したいなら聞くけど、ワケありなんだろう?」
「ありがとう。いつか話すよ、きっと。姐さんとボクは乳友だからね、あはは」
「いつでもこの乳貸してやるから、飛び込んどいで!」
 シキは元気なく微笑んだ。
 前のシキなら飛び込むどころか、それ以上のことをしたかもしれない。けれど、今のシキは昔とは少し変わってしまったようだ。
 そのことに炎麗夜は拍子抜けした。
「シキなら悦んで飛び込んで来ると思ったんだが……」
「あはは、ご希望に添えなくてごめんね。大丈夫だから心配しないでいいよ。少し?シキ?という自我が不安定になってるだけだから、すぐに元通りのエロリスト・シキに戻るよ」
 ニッコリ笑顔をシキは炎麗夜に贈った。
 しばらくすると完全に身なりを整えたアカツキが戻ってきた。
 顔のメイクは前よりも濃くなっている。髪の毛は下ろしたままだが、先ほどとは打って変わって艶やかだ。服は厚手の女性物を着用していた。
 ケイは心配そうな表情でアカツキを見つめた。
「そんなに体調が悪いの?」
「悪くない」
「強がらなくてもいいんだよ。だってその濃いメイクは、体調を隠すためにしてるんでしょ?」
「うるさい、そんなことより紅華を出せ。貴様の中に紅華がいるんだろ」
 そのアカツキの言葉にシキが付け加える。
「ボクの母さんもね」
 アカツキもシキもそう確信していた。
 いったいケイになにが起きたのか?
 これまでアカツキは幾度となく、あの女型〈デーモン〉を『紅華』と呼んできた。
 シキはマダム・ヴィーとの会話の中で、〈デーモン〉にされたかもしれない母を捜していると語り、マダム・ヴィーは〈デーモン〉になる前に逃げ出したと語った。
 そして、戦いの最中で衣服が破れ、露わになったケイの腰にあった刻印。
 すべては一つに結ばれるのか?
 一同の視線はケイに向けられていた。
 そして、ついにケイが語りはじめたのだ。
「簡単にいうと、あたしをベースにして三人が合体してる感じ?」
 その言い方は本人なのに曖昧な表現だった。
 周りもそれだけは納得していないようだ。
 炎麗夜はシキとアカツキを交互に見た。
「わかったかい、今ので?」
 先に顔を向けられたシキが、
「そういう説明が聞きたいんじゃないんだけど」
 次にアカツキが、
「詳しく説明しろ」
 と、強く言った。
 難しい顔をしてケイが唸った。
「ん〜っ、複雑で説明しづらいんだけど、まずはあたしと紅華の関係から話そうかな。それはあたしがこの世界に来た理由とも深く関わってるから」
「早く聞かせろ」
 アカツキが急かした。
 だが、ケイはマイペースだ。
「ちょっと待って、このミカンの缶詰め食べながら、頭の中で話を整理するから」
「いいから早くしろ!」
「アカツキも幼いころから、ミカン好きだったでしょう? ほら、あ〜ん」
 フォークで刺したミカンがアカツキの口元に近付いてきた。
 ばつが悪い顔をしてアカツキはそっぽを向いた。
 笑ったケイはそのミカンを自分の口に運んだ。
「おいしいのに」
「話が整理できたら話せよ」
 そっぽを向きながらアカツキが言った。
 ふと垣間見えるケイの違う雰囲気にアカツキは弱いらしい。
 ミカンを食べ終えたケイ。
「さてっと、話の続きしますね」
 こうしてケイは再び語りはじめたのだった。