相手の気持ちがわかるとき
一章その一
他人から何か指摘されたときとても不愉快に思うものだ。
三年前になるが、私宅の敷地内に草が生えているのが嫌だと隣に越してきた家のお母さんが言ってきた。草が腐ってゾウリムシが塀を伝わって来るのを家族が毎日確かめていたらしい。
草が生えている狭い土地というのは我が家の東側の裏地で、水仙畑にしたいと思っていたのだが、数年は夫が病気になり荒らしていたし、夫亡きあとは剪定した木切れを置くように剪定師に言っていた。
塀の向こうは親しい間柄のご夫婦が住んでいて、春には花梨の花が咲き檸檬や八朔がたわわに生って、ご主人が生存中は畑でトマトを作っておられた。
そのお二人が交通事故と室内事故であっけなく亡くなってから数年は空家と空き地になっていたが、そこには同じ光景がそのままあった。
なのでゾウリムシの行き来があったとしても何も問題はなかったのだ。
数年が経ち、その空き家と畑が更地となったのは売り手が付いた時だった。
そこには個人病院が建ち我家の塀の向こうはコンクリートで固められた。
きれいに整地した通路にゾウリムシが這っていたら気味が悪いということだろう。
家を建てた夫婦の出はわが町から遠い山村出身だそうで百姓には慣れていたらしいが、町にきれいなビルを建てたら隣の家の塀越しの草も気になるという。
その件の結末として私は、裏の畑をコンクリートで固め草が生えないようにすることを思いついた。工事の際に水仙や白い彼岸花、紫陽花、山吹の木もことごとく切った。畑の続きにはコンクリートで固めた広い洗濯干場がある。
隣のおかあさんは毎日のように来てあれこれ指図していたが、土のスペースが整地されきれいになって満足だ、少し言い過ぎたかなと思ったけど……、すみませんと言った。
その件はそれで落着した。
云十万の費用が要ったが、今は裏の土地が整然となって気持ちが好いのでコンクリートで固めたのは良かったと思っている。
作品名:相手の気持ちがわかるとき 作家名:笹峰霧子