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彼女の元カレ

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 私が彼女と夜道を歩いていると、何処からか見知らぬ男が近寄って来て、彼女に声をかけている。
 私の彼女も別に嫌そうな感じでもなく、知り合いのように男と話している。
私は彼女と見知らぬ男が、何時までも話を止めないので、仕舞には腹が立って来た。
 しかし付き合い始めて間もない彼女に、感情的になった姿を見せるのは、見っとも無いと思い、我慢していた。
 歩きながら二人の会話を聞いていると、今度は何時会えるとか、お前のことが忘れられないとか、男が言い、彼女は、今は分からないとか、今度又ねとか、言って、男の要望をはぐらかしている様な感じである。
 私は元彼だろうと思いながらも、今、彼女の横に現在の彼である私が並んで歩いているのが、眼中に入らない様な態度の男に、段々と腹が立って来た。男にも腹が立っているが、彼女にも配慮の無さに腹が立った。
 私は彼女の手を引いて、今来た道へ引き返そうとしたが、男は何処までも私の彼女にまとわりついて来る。
 私は彼女の手を引いて走り出した。すると男も走ってついて来て、彼女の傍から離れない。何処までもついて来るので、到頭私は息が切れて、立ち止まった。
 相変わらず話し続けている男に向かって、
「オマエは、一体オレの彼女に何の用事があって、付きまとうのだ?」
 私が怒鳴ると、男は私を完全に無視して、尚も彼女に話しかけている。
「オイ、オマエはオレの事を、舐めているのか。オレの彼女にこれ以上話しかけるのなら、只じゃ済まさないぞ」
 私がそう言って、男の胸倉を捕まえても、男はまだ私の事を無視しながら彼女に話しかけている。
 私は堪忍袋の緒が切れて、男に殴りかかった。しかし男の体は水中の草の様に、私の殴りかかる拳をユラユラと避ける。
 私が何度殴りかかっても、男の顔や体には当たらない。私の殴りかかる腕も、水中でフニャフニャっとなって、思い通りにいかない。
 私は何度殴りかかっても埒が明かないので、仕舞には彼女を連れて逃げようとするも、彼女は人魚になっており、水中を何食わぬ顔で泳いでいる。
 私は自分も人魚になっているのだろうかと思ったが、私は人間のままである。男は何時の間にか顔が人間で体だけが魚になっていた。
 その後、人魚になった彼女と、体だけが魚になった男は、並んで私の周りを廻った後、何処かへ泳いで消えた。
作品名:彼女の元カレ 作家名:忍冬