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蛇遣い

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 深夜、私は犬を連れて道を歩いている。
 道沿いには田圃が続き、田圃と道との間には小さな用水路があった。
 犬が用水路を覗いて、大きな声で吠えだした。
 何事かと思い用水路を覗くと、そこに金色の蛇が這っていた。
 しかもよく見ると用水路の中を金色の蛇が一定の間隔を保ちながら、ずっと続いて這っている。
 背筋が凍り付くような気がした。
 蟻の行列はよく見るが、蛇の行列を見たのは初めてだった。
 しかも金色の蛇など、今迄に見たことが無い。
 道は暗い闇の中、何処までも真っ直ぐ伸びており、その道沿いに田圃があることから、用水路はどこまでも続いている。
 私は気持ち悪かったがしばらく歩き、行列の最後尾を確認してやろうと思った。
 しかしゆけどもゆけども用水路の中の金色の蛇の行列は終わらない。
 今度は行列が何処に向かって進んでいるのかが気になり始めた。
 気になり始めると、放っておけない性分の私は、今度は行列の先頭を探しに、反対に歩き始めた。
 中中先頭に追い付かない。
 暗い闇の中を歩き続けていくと、大きな川が流れていた。
 川に入る手前の砂利のところに、蛇使いの女が歩いているのが幽かに見えた。
 女は笛を吹きながら歩いている。
 歩く速度がかなりゆっくりで、笛の音に合わせて、踊りながら歩いているようにも見える。
 蛇遣いの女は川に入る前に、儀式のような事をした後、そのまま川に入って行った。
 金色の蛇も続いている。
 蛇遣いの姿が徐徐に川に沈んでいき、やがて完全に見えなくなった。
 私はどうせすぐに浮かび上がってくるものと思っていたら、しばらくしても浮かび上がってこないので、心配になった。
 続いて川に入っていく金色の蛇も、川から浮かんでこない。
 川は対岸まで五十メートルはあると思われる。
 蛇遣いは川の中で、死んでしまうのだろうかと思った。
 私はこの光景を、息をのんで眺めていた。
 しばらくすると蛇遣いの頭が、対岸近くの川面にあらわれた。
 私は幻を見ているのだろうかと思った。
 蛇遣いの女は対岸に上がると、笛を吹きながらそこから先の暗い闇の中に進んで行った。
 対岸に上がった金色の蛇が、行列になりそれに続いて進んで行く。
 暗い闇の先に何があるのかは分からない。
 
作品名:蛇遣い 作家名:忍冬