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殺し屋

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 私は菜の花の咲く小道を歩いている。
 道ですれ違う人が、私を見ると避けて通る。
 菜の花が咲いているところをみると、今は春なのかもしれない。
 私には何もかもぼんやりしており、はっきりしたことがわからない。
 自分が誰なのかもわからない。
 夢か現実かもわからない。
 生きているのか、死んでいるのかもわからない。
 どうしてこの道を歩いているのかもわからない。
 私は道ですれ違う人に、
 「私は誰なのか教えてくれませんか?」
 と聞くと、
 「はぁ?」
 というような顔をされる。
 「私は何の為にここにいるのですか? 私は生きているのですか? 私はどこから来たのですか? 私はどこに行こうとしているいのですか?」
 と聞くと、ほとんどの人が、気持ち悪がって逃げていく。
 私には記憶というものがない。
 何かを決める判断が、わからない。
 わからないから、決めることが出来ない。
 自分で決めることが出来ないから、他人に聞く。
 しかし、他人には私の言っている意味すら分からない。
 私は混沌として、さまようしかない。
 実のところ、混沌としているのかさえも、わからない。
 何が何やらわからない。
 歩いていてもフワフワしていて、現実感がない。

 毎日そうやって、誰にも相手されずに歩いていると、大きな建物の前で四股を踏んでいる褌姿の老人がいたので、聞いてみた。
 「私は誰ですか?」
 「宇宙人だよ」
 「ここはどこですか?」
 「宇宙人が住む施設さ」
 「じゃ、あなたも宇宙人ですか?」
 「ワシは、宇宙人撲滅の為に、この施設に雇われた殺し屋だよ」
 そう言うと、老人は又四股を踏みだした。
作品名:殺し屋 作家名:忍冬