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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
novelistID. 41661
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)

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10、記憶 再演 禁忌




―――。
…………――。

バリツは夢を見た。やけに鮮明な夢を。
 自分はぽつねんと、暗闇の中に立ち尽くしていた。
 思考はやたらとはっきりしている。
そしてこれは、夢の中に相違ない。

となれば明晰夢――。

「……っ!!」

自身のトラウマ――『猿夢』の記憶が脳裏を過ぎり、本能的に身構える。
 だが……不気味なアナウンスも、生々しい獣の香りもない。
 音はなく、空気も澄んでいた。

いや待て。
 そもそもだ。冷静になれば――自分がいた場所は……。
 『きさるぎ駅』でも、自室の寝室でもなかった。

 あのふざけた、毒入りスープ作りの牢獄だ。

「そうだ。私は――あの幼女に手をかざされて……」

つぶやき、ふと気づいた。

どうもどこかで体験した覚えがある状況ではないか。
――思い返すのに、そう時間はかからなかった。
あの毒スープ作り空間の中に閉じ込められる直前みた明晰夢だ。

だが、あの時とは色々なことが異なっているように思えた。

私はこんな声だったか? その通りだ。

自らの右手を見やる……元通りだ。
続けて左手も。変わらない。

足――履き慣れた革靴は、現在の自分のものだ。幼少の自分のそれではない。
 体を曲げながら、自分の服装を確認する。
 普段着のインバネスコート姿。大きめのチェックラインが入ったケープは、動きに従ってふわりとまいあがる。

はっきりと確認した。
自分は子供になってはいない。アラサーのままだ。
そして、あの空間にいた時のパジャマ姿でもない。現在の自分を象徴するような普段着だ――。

「あの子は、一体私に何を? 斉藤君とバニラ君は……――うッ!?」

 激しい頭痛に襲われ、思わずうめく。
 脳に何かしらの干渉をされたとでも言うのだろうか?
 だとしたら洒落にならない話だ。

バリツは眼を閉じた。
息を整え、思考を整理する。
 記憶を呼び起こす。大切な記憶を思い出す。

10年ほど前。
オーストラリアのメルボルンに滞在していた頃。
 ラムおじさんが最後の発見を――『大盾』の発見を成し遂げた直後。

(そうだ、間違いない――)

 この得意な空間によるものなのだろう。
 その記憶は、やはり、鮮明に思い出された。

 ……――。