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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『毒スープ』後編(上)

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9、再会




バリツのピンチ最中、現れた“それ”の正体は、部屋の薄暗さのためによく判別できなかった。
だが一目でわかるのは――巨大な体躯の巨人であることだ!

「ウリィ! ウホおおおおおおッ!」

(この奇妙な雄叫びは……類人猿か!?)

 あっけにとられるバリツはよろよろと起き上がるが、目の前で繰り広げられる光景は、到底理解が追いつかないものだった。

 まず、一体の植物人間が、その豪腕から繰り出されるラリアットにぶっ飛ばされた。叩き付けられた本棚から、分厚い本が雨あられと降り注ぎ、植物人間を埋没させる。
 
 身長250センチはあろう巨人は、残る二体の首根っこをひっつかみ、「ウキいいぃぃぃぃ!!!」タンバリンのように頭部を何度も何度もぶつけ、しまいには床に激しく叩きつける。えげつない!

 そいつの眼光が、黄金の輝きをキラーンと放つと、今度はバリツに迫る!

 身構えるが、そいつがひっつかんだのは、バリツではなかった。先ほどまで自身を拘束していた植物人間だ。ものの数秒で、巨人は植物人間の頭部を首根っこから引き抜いてしまった。その場でボロ雑巾のように崩れ落ちる犠牲者。

 圧倒されたバリツは、せっかく立ちあがったばかりなのに、そのままへたり込んでしまう。

「一体……何が起きているのだ!?」

「ウホオオオ……!」その時だった。
「すばらしい、すばらしい力だ……!」

 巨人は両の豪腕を掲げて見せながら、確かに言葉を発したのだ。
 
「その声はまさか……」バリツは一瞬耳を疑った。

「おお! その声はまさかバリツ!?」

 半ばオウム返しのような返答――やはり聞き覚えがある声だ。

「バリツ! やはりバリツか!」巨人は大きく腕を広げ、歓喜を示す。

 薄明かりの中、バリツの眼は、やがてその正体を捉えていく。
 全身から漂う毛皮の香り。
よくみればその骨格と体つきは、ゴリラのそれ。

 しかしながら――どうして見まごうことがありえよう?
 その頭部は、ゴリラのそれではない。
バリツと気心知れた、陶芸家その人。

「――斉藤くんんん!?」

「いやあ! 無事だったか! 作戦は大成功というわけだな! ガッハッハッハ!」

 斉藤は腰に豪腕をあてがい、呵々大笑してみせる。体の巨大化に伴い肺活量も向上したのか、声量も増していた。崩れたリーゼントも健在だ。

「い、いやいやいや、なにがどうなって……」

 刹那、崩れていた本の山から、植物人間が飛び出してきた。
 ちょうど斉藤――であるらしい巨人の背後を取るような形だ。

「な、まだ――っ」
「ウホ?」

 そこへ入り口から早足で歩み寄ってきた白衣の男――クルタパジャマのバニラが、手にした何かを無言で植物人間の頭部に振り下ろした。
 人型の怪異は、ザクリという鈍くも小気味のよい音の直後、その場に崩れ落ちた。

「バニラ君!」バリツは歩み寄る。「てっきり声が聞こえなかったのかと……」
「隠れて様子を見てたんだ」淡々と答えるバニラが手にしているのは、鉈めいた肉切り包丁だった。
「そ、そうなの?」
「下手に出て行ったら、揃って犬死にしてたかもしれないし?」
「は、ハハハ……」

 いったいいつから見ていたか問う気概は、バリツにはなかった。
 生き残りにおいては合理的な判断であるが、もしかして……自分が植物人間に袋だたきにされていた時には、すでに覗いていたのだろうか……?

「だがそうはならなかったんだなこれが! ウホホホホ!」

 巨人の呵々大笑が書物庫内にこだまする。
 
沈黙。

「あー。んー……まあ斉藤も、無事……なのか?」

若き新聞記者は、この巨人を前に意外なほど冷静だった。表情はこれまたかつてみたことがないほど引きつっているけれど。

物陰から一部始終を覗いていたと語っていた。故に、心の整理のタイミングがあったのかもしれない。

 ともあれ、一体全体斉藤に何があったのか問わねばならなかった。

「ここじゃあ暗いぜ。俺様のこの肉体美を見せたい」
「あ……うん」


 三人は薄暗い書物庫から、中央の円卓の部屋に移動した。
 バリツは全身を植物人間によって痛めつけられたが、少なくとも歩行に差し支えはなかった。目立った出血もなく、骨も無事らしかった。

斉藤を改めて観察すると、いわばリアルな着ぐるみの頭部だけを脱いだような姿だ。これがヒーローショーだったら、子供たちの夢はぶち壊し必至である。せめてこんなに生々しく毛皮だらけの筋肉だるまの様相でなければ、まだ愛嬌があったのかもしれないが。(悪役ならばあるいはワンチャン……ないな!)

「で……斉藤君。その体は一体?」

「おう、このタフネスな肉体美――聞きたいだろ? 聞きたいよな!」斉藤はボディビルダーめいて、桁外れの上腕二頭筋を掲げてみせる。筋肉の動きだけで空気が震えるような気すらした。

「俺は間違いなく、あの部屋に行ってぶった切られた。蛇と一緒にあの部屋に入ったら、首を落とされてしまった」
「うんうん」頷くバリツ。
「だが蛇も巻き添えにしてやった。一人一殺ってわけだ」
「……うん」若干首を傾げながらも首肯するバニラ。

「そして俺様は、猿に体を改造されてパワーアップしたんだ」

「――は?」「――んん?」
 異口同音の新聞記者と冒険家教授。
 聞き間違いだったかな?
 何やら、色々な途中経過がすっ飛ばされている。しかもめちゃくちゃ肝心な所が。

「えーと、パワーアップしたのは見ればわかるのだが……」
「つまり斉藤貴志は猿のパワーを得て、舞い戻ったというわけだ」
「そこがわからないんだけど、斉藤君」
「まさに不死鳥! ゴッドモンキー!」
「いや、だから、どういうことかね!?」

「斉藤」バニラが手をパンと叩く。

「――ひとまず時系列順に説明してもらってもいいかい?」
「ゴメンナサイ」


血時計のリミットを踏まえて、その後の話の整理はできるだけ素早く行われたが、真相はまもなく明らかになった。
斉藤の話は、以下の様なものであった。